今年も「春季労使交渉(春闘)」の季節がやってきた。こうした労使交渉にはどれだけ意味があるのか。本当に給料アップに影響しているのだろうか。日本総研の山田久主席研究員は「組合のベア要求は経営に緊張感と事業創造のプレッシャーを与える。それは日本企業の競争力の源泉だ」と主張する――。
春闘といえば生活向上のためのベア(ベースアップ)を巡る攻防だったが、今やべアに対するこだわりも薄くなっているようにみえる。写真は春闘集中回答日でボードに書き込まれる各社の回答額=2013年3月13日午前、東京・日本橋の金属労協(写真=時事通信フォト)

薄れるベースアップへのこだわり

2019年春季労使交渉は、その序盤から経団連会長が「官製春闘」への牽制を行い、一部産別労組がベア(ベースアップ)統一要求を掲げるのをやめるなど、ここ数年とはやや異なる展開が見られるなか、3月13日の集中回答日を迎えた。

いわゆるパターンセッターとして注目を集める、自動車や電気機械の大手企業のベアは、多くが前年を下回る回答となった。連合が公表した、3月22日時点で回答を得た傘下組合の妥結額の集計値は、いわゆる定昇(定期昇給)込みの賃上げ率(集計組合員数による加重平均)で前年やや下回り(2.17%→2.13%)、組合数による単純平均では低下はより大きくなった(2.13%→2.07%)。また、定昇相当分を控除した額のわかる組合の集計でも、ベア分は昨年の0.64%から0.62%に低下している。

ちなみに、年齢や勤続年数が上がるに従って、毎年賃金が上がる仕組みが定期昇給で、その会社の賃金体系全体を押し上げるのがベア(ベースアップ)である。

交渉妥結はこれからが本番であり、連合によるより詳細な集計内容や産業別にわかる経団連集計も公表されていないため、結論を下すにはなお早いが、少なくとも現時点では今春闘の特徴として以下のことが指摘できよう。

第1は、足もとでの業績悪化懸念や経営環境の先行き不安の高まりにもかかわらず、賃上げ自体の流れは維持されていることである。いわゆる「官製春闘」が始まる前であれば、現在のような先行き不透明感のある情勢下では、ベア・ゼロ回答が続出していたであろう。ここ数年の政府の働きかけのもとで議論が進み、やり方はともかく、少なくとも一定の賃上げの必要性の認識が労使で共有されるようになった成果といえる。

第2は、賃上げの流れは続いている一方で、ベアへのこだわりが薄れているようにみえることである。すでに指摘した通り、主要企業の個別額にせよ、連合の集計値にせよ、ここ数年、政府が要請してきたベアについては、モメンタムが弱まっている印象がある。この背景には、経団連が「官製春闘」を牽制するとともに、ベアにこだわる春闘のあり方に違和感を表明し、多様な手段での賃上げを主張してきたことも影響しているだろう。

第3は、働き方改革や格差是正など、賃上げ以外の議論の広がりがみられていることである。2019年4月から関連法が施行され、「働き方改革」への取り組みが本格始動する。これを控え、非正規労働者の処遇改善、年次有給休暇の取得促進、勤務間インターバル制度の導入などの話し合いが労使で行われている。さらに、シニア活躍が大きなテーマに浮上するなか、定年年齢の引き上げの議論も進んでいる。