技能実習制度に悪質ブローカーが介在しやすい理由
だが、そうした具体的な運用上の問題以前に、大きな論点が2つある。第1は、既存制度の問題をどう是正するかである。具体的には、国会でも大きな論点となった技能実習制度の問題である。この制度はこれまで長年にわたり課題が指摘されてきており、これまでにも2度の制度見直しがなされてきている。しかし、厚生労働省の発表では、2017年に技能実習生受入れ企業に対して5966件の監督指導を実施し、その70.8%に当たる4226件で労働基準関係法令違反が認められた。
昨年11月からは制度改正がなされ、適正運用に向けて「外国人技能実習機構」が設立されるなどされているが、人員数などの面からその実効性は不透明である。それ以上に問題なのは、技能実習制度は基本的には受入れは民間に任されており、悪質なブローカーが介在しやすい状況を否定できない点である。その排除に向けた法務省令の設定など、政府は対応の方針を示しているものの、その実効性には疑問が残る。
悪質ブローカーを徹底排除した韓国に学べ
本格的な対応を講じるには、韓国の「雇用許可制度」に学ぶべきであろう(※1)。同国では、かつて日本の研修制度(技能実習制度)をモデルに産業研修制度を導入していたが、人権侵害等の問題が多く、2004年から新たな制度に移行した。悪質なブローカーを排除するために採った措置は、政府主導で送出し国政府と協力した透明性の高い制度を構築したことである。
選抜、導入、管理、帰国支援までの全プロセスを公共機関が行う仕組みで、韓国政府(雇用労働部)と送出し国政府との間で協定が締結されおり、送出し国でも協定に基づき、選抜などを公共機関が行う。仮に協定に違反した場合、韓国政府は送出し国に対し、2年ごとの更新の停止、割当枠の停止や縮小などのペナルティー措置を取ることになっている。
さらに、韓国の制度では、所管官庁に「外国人力政策委員会」とよばれる関係省庁幹部をメンバーとする組織があり、そこで毎年労働市場需給調査、景気動向、不法滞在外国人数などを考慮し、導入・運営計画を策定する。産業別に割当枠(クォータ)を決定し、その範囲内での外国人労働者の受入れが行われる形になっている。
筆者の意見は、わが国でも政府に外国人の受入れを決定する組織を創設し、そこが先述の第三者機関に諮問するという形にするのが望ましいというものである。同時に、政府主導による送出し国政府との連携による受入れプロセスに切り替えるべきであろう。
それとともに、技能実習制度が外国人の人材育成という本来の目的できちんと機能するように再構築し、労働市場テスト(一定期間求人を行って国内労働力では賄えないことを確認する仕組み)と割当枠に基づく正面からの単純労働力受入れの制度を創設すべきと考える。この制度のもとでは受入期間は原則1年、最長でも2~3年とし、それ以上の雇用の継続は、今般創設される「特定技能」への切り替えを条件とすればよいだろう。
加えて指摘すべきは、外国人留学生のアルバイトの適正化である。留学生がアルバイトを行うこと自体は、生活費を得るためや日本のビジネスを知る点で外国人にとって有用であるが、問題は留学生である身分を隠れ蓑に、実態的には労働者として働くケースが増えていることである(※2)。その受け皿になっているのが、近年急増した日本語学校であり、適正運用への監視を強化すべきである。在留資格審査自体を適正化する必要もあろう(※3)。
(※1)韓国の制度の解説は、佐野孝治・福島大学教授にご教示いただいたことに基づく。参考文献としては、佐野孝治(2017)「韓国の「雇用許可制」にみる日本へのインプリケーション」『日本政策金融公庫論集 第36号』。
(※2)外国人留学生の就労実態は、芹澤健介(2018)『コンビニ外国人』新潮新書 に詳しい。
(※3)11月19日付の朝日新聞・朝刊は、東京入国管理局が留学生の在留資格審査を厳格化させていると報道している。