フリーランスという選択肢

もう一つ、シニアの活躍を進める方策は「フリーランス」を増やすことである。OECD34カ国のデータを用い、60歳以上の就業率の決定要因を分析すると、(1)労働需給、(2)高等教育比率、(3)年金支給開始年齢のほか、(4)自営業主比率の影響も受けることがわかる。とりわけ、英国やスウェーデンなどでは近年、自営業主比率が上昇傾向にあり、シニア就労を支える重要なファクターになっている。

これに対し、わが国では自営業主比率は低下傾向が続いている。それは農業や個人商店を典型とする伝統的自営業が減少しているからであるが、いわゆるフリーランスと呼ばれる新たな自営業の増加があまり進んでいないからでもある。そうしたわが国の状況は、早くから失業問題に悩まされ、多様な就労の受け皿創造のために、起業的な自営業の促進策を進めてきた欧州の状況に遅れをとっている。欧州でも必ずしも期待された効果は得られていないのだが、全体でみれば、農業での自営業の減少をサービス業での自営業主の増加で概ね補うことはできており(※5)、国によっては自営業数が増えているのだ。

シニアになれば子供は独立し、一定の蓄えも形成される。収入は不安定になるが、経験や技能を活かし、フリーランスとして独立して働くことのメリットは増えていくはずだ。だが、わが国ではいわゆる終身雇用・年功制のもとでの「就社型」の雇用が基本であり、独立のベースとなる特定分野での高い専門性の確立や、社外の人間との広い人脈形成ができている人が少ない。ここでも日本的雇用慣行がシニアの就労の足かせになっている。

(※5)Eurofound(2017)"The many faces of self-employment in Europe"

「ハイブリッド人事」と「かわいいシニア」

以上のように、シニア活躍のためには、終身雇用・年功制といういわゆる日本型雇用のあり方を大きく見直していくことが必要になる。特定分野の専門性を高めてキャリア自律を行い、賃金も能力・成果に応じて支払われるようになることが、転職・独立を容易にするからである。

ただし、ここで留意すべきは、日本的雇用の良さもあることだ。とくに、若いときにしっかりした雇用保障と緩やかだが着実に上がる賃金のもとで、様々な仕事を経験し、失敗を恐れずチャレンジできることは、長く働き続けるための基本能力を身に着けるうえで重要である。

問題は中堅・中年以降の働き方で、特定分野の専門能力を高めることを覚悟し、報酬も実力主義賃金とする、プロフェッショナル型の雇用・賃金の仕組みにシフトすることが必要である。端的に言えば、若いときは日本型、中堅・中年以降はプロ型という、「ハイブリッド」人事制度への転換が、シニアの本格活躍には望ましい。