最低賃金引き上げや同一労働同一賃金への対応など、一気にコスト負担が増えるため、適用には十分な猶予期間を設定することは必要であろう。各紙の報道では、政府は企業規模要件の引き下げを100人超と50人超の2段階で適用スケジュールを明記する方針と伝えられ、それ自体は妥当と考えるが、50人以下についても適用スケジュールが示されることを期待したい。

中小企業経営者には、経営環境が大きく変わり、生き残りにはビジネスモデル転換に取り組むことが不可避であることを、手遅れになる前に認識してもらうことが重要である。その意味では規模要件の撤廃方針を明確化することが必要と考えるからである。

ただし、繰り返しになるが、実際の適用拡大の時期には十分な配慮が必要であり、同時に、中小企業部門の強化を政府全体の最重要政策課題として位置づけることが肝要である。そのうえで、中小企業が連携や統合を有力な選択肢として、生き残るための方策・ベストプラクティスを示すとともに、そのための支援策をパッケージで示すべきである。

なお、ここで誤解がないように付言すれば、中小企業部門強化策に注力すべきなのは、それこそが日本の再生の中核テーマであるからであり、年金制度のためばかりではないのは言うまでもない。

被用者年金の適用拡大議論に隠された本丸

実は厚生年金の適用拡大については、企業規模要件の見直し以外に、余り議論されていないが将来に向けて重要な論点がある。いわゆるフリーランス(雇用的自営)や複業者(マルチジョブワーカー)への適用問題である。

業務IT化の進展や情報通信技術の飛躍的発展により、企業内業務の多くが外注可能になり、これを業務委託契約で請け負うフリーランス(雇用的自営)が増えている。今後も、いわゆる「ギグ・エコノミー(インターネット経由でスポットベースの仕事を受発注する経済)」の拡大で、雇われない働き方は一層増えていくだろう。

フリーランス(雇用的自営)は、農家や商店主、士業といった伝統的な自営業主とは異なり、生産・営業手段を保有せず、基本的には世襲ではなく一代限りというケースが多い。現実には、限られた企業の仕事を請け負う雇用者、なかには非正規労働者に近い存在も少なくない。