一方、複業者の中には、シングルペアレントで、複数事業者で各々週20時間未満のパートタイマーを掛け持ちしているようなケースがみられる。現在、基本的にはこれらタイプの働き手には厚生年金が適用されておらず、彼らの労務に対して企業は社会保険料を支払う必要はない(国民年金には加入義務がある)。 。

老後、貧困にあえぐ低賃金労働者が増えていく恐れ

そうした状況では、とりわけ今後はデジタル経済の発展により、コスト削減を追求する企業が、インターネットを活用して企業のニーズと個人のスキルを直接マッチングさせるプラットフォーマーを介して、以前は雇用者にやらせていた業務を、低コストで発注できる自営業主の立場で請け負うフリーランスに切り替えるという動きが加速し兼ねない(ギグ・エコノミーの拡大)。

あるいは、社会保険料を回避したい事業所が20時間未満の短時間就労を増やし、生活のために複数の事業者において細切れで働くため、厚生年金が適用されず、老後に貧困を余儀なくされる低賃金労働者が増えていく恐れがある。

そうした動きが広がれば、全体として賃金抑制に作用するほか、シニアの活躍にも足枷になることが懸念される。企業には定年延長などでシニアの活躍を考えるよりも、低コストのフリーランスの活用を優先するインセンティブが働くからだ。

それは、フリーランスというシニアの就労機会を形だけ増やすかもしれないが、低収入で細切れの業務をアルバイト的に請け負うシニアを増やすに過ぎない。シニア活躍のために増えるべきフリーランスとは、職業経験によって確立したプロフェッショナリティーを、発注企業の付加価値創造に活かせるタイプであるはずだ。

そうした望ましい形でシニアがフリーランスの立場で活躍するには、50歳代までに独立を果たしておくことが重要で、年金制度がその選択のディス・インセンティブにならないよう、フリーランスにも厚生年金の適用を拡大すべきである。また、独立準備として副業を行うのは有効な手段であり、その際に年金の基礎となる報酬が通算できるようになれば、本業では短時間勤務を選ぶと同時に副業をはじめるインセンティブになる。