奈良県が45億円を投じて今年4月に新設したバスターミナルがつまずいている。利用が見込みより大幅に少ないうえ、想定外の場所に渋滞を引き起こしている。まちづくりの専門家である木下斉氏は「ダメな行政事業には『顧客を見ない』という共通点がある。奈良公園バスターミナルはその典型だ。こうしたムダが地方を苦しめている」という——。
カラフルな観光バスが一列に並ぶ
写真=iStock.com/Tramino
※写真はイメージです

奈良県の誤算

奈良県は今年4月、約45億円をかけて奈良公園バスターミナルを新設しました。開業直後の5、6月の利用見込み数を約2万台としていましたが、実利用数は7000台。なぜ予想を大きく下回ったのでしょうか。

そもそもホールや商業施設も併設した新たなターミナルを開設したのは、奈良公園を訪れる観光バスが、公園付近の狭い県営駐車場で客を降ろして待機し、渋滞が発生していたから。しかし開業しても、バスが来ない。では来ないバスはどこにいったかといえば、近隣にある春日大社や興福寺などに併設された駐車場でした。

バス事業者の目線から、奈良公園バスターミナルと春日大社の駐車場を開業当初の条件で比較すると、図表1のようになります。

奈良公園バスターミナルと春日大社の駐車場
(報道資料を基に木下氏作成)

奈良県としては渋滞の温床であった奈良公園の乗り降りを変えて、バス事業者を新たなバスターミナルに誘導しようとしたものの、利便性の高い民間駐車場のほうに行ってしまったわけです。

バス事業者の利用が急増した春日大社、興福寺などは大混雑となり、これらに接続する道路も渋滞が発生。渋滞緩和のためのはずが、別のところに新たに渋滞を発生させるという笑えない結果となりました。