20年たっても治らない深刻な病
20年ほど前、岡山県津山市に中心部活性化のために開発された「アルネ・津山」という複合施設の高層階と地下に巨大な駐車場が開発されました。中心部には駐車場が少ないため、大型商業施設と駐車場を整備すれば人が集まるだろうという、よくある仮説をもとに作られましたが、開業後すぐに経営が傾いて市が救済に出る羽目になりました。
商業施設を主体とするために、建物の5階から屋上にかけて作られた駐車場まで自走式で上がるのが利用者には不便であり、そもそも商業施設の魅力がないために長時間の買い物をする必要もないという顧客調査のなさ。さらに中心部が衰退したことで施設周辺にある時間貸し駐車場なども多く供給され、それらの利便性が高いために競争にも負けたという実態がありました。
駐車場のみならず、この商業施設自体が過剰に高コストで開発され、その近隣の大手商業モールと比較して商業物件としての競争力がありません。結果、家賃と維持費が釣り合わず、第三セクターの運営会社が経営難に陥ってしまいます。いまだ百貨店などが一部残ってはいるものの、多くのフロアは自治体が税金で維持する公共施設ばかりになっています。
このように政策型事業では顧客調査が乏しく、競争戦略を持たないがために計画から大きく乖離した実績になることが後を絶ちません。
行政の向き合うべきは「規制強化」
民間がやれることを行政がやる必要はなく、行政は行政にしかできないことと向き合うのが本筋です。今回のような都市交通問題で、行政のできる最も有効な打ち手は「規制強化」です。
具体的に言えば、奈良公園周辺を含めた中心部への一般車両乗り入れを制限し、制限区域周辺に集合駐車場を作ることを検討すべきです。これは欧州において都市中心部や観光地に自動車乗り入れ制限をする際によく行われる政策です。
私が最も驚いたのは、ドイツの有力自動車メーカー・メルセデスやポルシェの本社のある「自動車の町」シュツットガルトでさえ、かつて自動車が行き交っていた中心部は今や一般車両立ち入り禁止へと変化し、その周辺に集合駐車場を備える方式を採用していたことです。
歩き回る人が増加して路面店舗が繁盛したり、日々さまざまなマーケットが開催されたり、広い公園と道路に人々が集まる風景を見ることができます。最近ではニューヨークのど真ん中にあるブロードウェーでさえ片側車線がオープンカフェなどに転換し、通行量が大幅に伸びています。
奈良の場合にも膨大な観光客が来る中心部への一般車両立ち入りを規制すれば、まとまった駐車場需要が生まれるため、必要な駐車場整備については民間資本を誘導することも可能になるでしょう。さらに中心部を多くの人が歩行する時間が長くなるため、消費にもプラスに働き、単に公園に行って帰るだけという動きも変わる可能性が高いです。