土日祝日のみ現金支払いが可能になるが……
さらに春日大社や興福寺は通常の利用客に迷惑がかかってしまうということで、行楽シーズンの10、11月の土日祝日は観光バスの受け入れをやめることを決定しました。この措置に対応するかたちで奈良公園バスターミナルは10月から土日祝日のみ当日予約と当日現金支払いが可能になり、挽回が期待されています。
しかしながら、奈良県はこれで安堵できる状況にありません。来年には、宿泊施設不足と言われてきた奈良県の目玉事業となる「奈良県コンベンションセンター」が開業します。「JWマリオットホテル奈良」や「奈良蔦屋書店」、巨大な会議場設備が入るこの施設にも、新たなバスターミナルが併設される予定になっており、どれだけの効果が出るかはまだ読めないところです。
地域でどんなにいい名目の事業であっても、それを利用する顧客が必ず存在します。今回であればバス事業者が顧客であり、彼らの利用ニーズに即したサービスでなければ利用されないのは当然です。
顧客調査は具体的にしなければならず、実際に奈良に乗り入れているバス事業者の上位企業などを個別にあたる必要があります。そこでつかんだ具体的な需要にもとづいて利用料などを逆算し、金融機関とも調整した上で開発規模や利用条件をあわせていくのが、事業の正攻法のやり方です。
政策型事業における「顧客調査」と「競争戦略」の不在
しかし、予算をつけて入札するという形式ばかりで民間と付き合ってきた行政は、個別企業に細かなコンタクトを取ると議会から癒着を疑われるなどを理由に民間を避けます。結果、事業責任を持たないコンサルなどに丸投げしてしまうことが多くあります。
また、自分たちの思いや考え方ばかりで、地域内に類似する競合サービスがあることを無視しがちです。
行政サービスの多くは、競争に晒されていることを前提に行われません。むしろ隣の自治体にあるものを自分たちの自治体にも作りたいという横並びの計画が多く、競争戦略のない場合がほとんどです。行政計画に競合分析が細かく行われ、そこに打ち勝つという狙いが書かれているものはほぼありません。
奈良公園バスターミナルの場合も類似する駐車場サービスが地元にあったわけです。にもかかわらず、そこより良いサービスを作らなければ利用されないというあたり前のことが、踏まえられていなかったからこそ、出だしの失敗を招きました。
とはいえ、競争戦略がそこになかったという問題の背後には、民間施設で代替可能なのであれば、そもそも役所がターミナル事業を巨額の予算をかけてまで取り組む必要があったのかという根本原因も出てきてしまう側面もあります。