長崎・平戸のホテル「旗松亭」は、2017年に経営破綻し、中国人実業家の手に渡った。天皇家や海外の王家も泊まった老舗は、なぜ生き残れなかったのか。背景にあったのは「もう大丈夫だ」という甘さだった――。

※本稿は、帝国データバンク 情報部『倒産の前兆』(SB新書)の一部を再編集したものです。

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天皇家が宿泊した「格調高いホテル」

政府登録の国際観光ホテル「旗松亭きしょうてい」。かつては天皇家や海外の王家が宿泊した格調高いホテルとして名を馳せたが、1990年代半ばを境に、団体客が減少し、売上はジリ貧に陥る。そこで即座に取り組むべきだった経営上の根本的な課題は、いかに先送りされ、倒産を免れない事態となってしまったのか。

1949年、映画館の経営を目的に創業した。1957年に映画館を廃館し、旅館「米乃屋」を開業。1969年2月に法人改組のうえ、同年8月に総客室数33室の国際観光ホテル「旗松亭」をオープンする。

旗松亭は、長崎国体に際し、平戸にご宿泊される昭和天皇をお迎えするホテルとして建設された。その後も、1980年には浩宮殿下(今上天皇)、1992年にはオランダのウィレム・アレクサンダー皇太子(現・国王)、また2002年には「全国豊かな海づくり大会」への行幸で、現在の上皇、上皇后両陛下がご宿泊された、格式高いホテルとして知られている。

開業以後も増築・改装を重ね、本館増改築が完了した1987年には総客室数117室まで拡張。さらに、食事処、屋上露天風呂などへの投資も重ね、ピーク時の年収入高は20億円近くにのぼった。