京セラミタジャパンの営業マン・山本公厚さんは、昨年の秋以来、取引先の雰囲気が明らかに変化してきたと振り返る。従来なら交渉の余地すらなかった大手企業から、逆に「提案をしてほしい」という依頼が増え始めたのである。
国内での複合機やプリンターの年間市場規模・約60万台のうち、同社のシェアは4%程度にすぎない。そのことは新規顧客の開拓の障壁となってきた。
「お客様は企業名やこれまでの取引関係で機器の導入を決めることが多く、新規のお話を聞いてもらうことが難しい面も確かにありました」
ところがリーマンショック以後、企業はあらゆる面からコスト削減を迫られることになった。
「経済危機」は同社にとっても「危機」には違いなかったが、一方で「壁」を乗り越えるチャンスを生むことにもなったのだ。
山本さんは昨年末に担当したある大手企業との取引を例に挙げる。同企業ではICカード認証によるセキュリティ強化を目的に、プリンターや複合機の総入れ替えを考えていた。が、オフィス内の機器は99%が他社製品。取引先を乗り換える手間や費用を考えると同じような提案では不利だった。
「ただこの不況ですから、お客様にとっての最重要課題がコスト削減であることも明らかでした。そこに突破口があると考え、逆提案を行ったんです」
機器の使用状況を詳細に調べ、他社の提案を覆す一点を探した。
「すると、パソコンからの印刷が出力全体の70%を占めていました。それなら手始めにプリンターのみのセキュリティ強化を図ってはどうか、と」
機器の総入れ替えには数億円の費用がかかるが、プリンターの認証システムの導入のみであれば1000万円以下で可能。まずは目先のコストカットを達成し、機器の入れ替えは順を追ってでも遅くはない――。プリンターの認証システムを「押さえる」ことを今後必要となる複合機入れ替え時の受注に繋げよう、という提案だった。
そうした一点突破の営業・機器導入のパターンは、京セラミタが現在の不況に見出した一つの活路でもあるという。事実、この「逆提案」は目論見どおり受け入れられ、山本さんは自社の「方針」を真っ先に実践した立役者の一人となった。