そんな山本さんの営業手法は、とにかく基本に忠実であることだ。話を聞いてもらえなくても、めげずにメールや電話で関係を維持してきた。顧客先では課題を聞き出し、解決策を「次回までに考えておきます」と先送ることで、次に訪問する口実をつくり出すよう心がけた。営業歴11年。その積み重ねはいま、「提案」を求められる土壌にもなっていると感じる。
プリンター認証システムに始まる複合機の導入は、消耗品の交換費用などを含めれば、10億円規模の仕事に化けるという。成約後、祝杯をあげた飲み会で、山本さんは上司や同僚に「ありがとうございました」と心から言ったものだと回想した。
「私はチームセールスの中で、そのお客様をたまたま担当していただけですから」
ただ、彼もまた一人の営業マンとして、個人的な喜びを噛み締めないわけではない。自らの仕事を密かに誇る気持ちを抱けるからこそ、自信も湧いてくる。
「3歳の娘と、土日は公園に行くんです」
山本さんはこう言うと、照れたように笑った。
「仕事でうまくいったときは、妻と3人で乾杯するんです。私はビール。娘にはジュースを持たせて」
※シェアは京セラミタ調べ
(市来朋久=撮影)