藤田氏が「社長交代」決断の背景
――12月12日付で専務執行役員だった山内隆裕氏が社長に就任し、藤田さんは会長となります。なぜ、今のタイミングでトップの交代を決断したのか、その経緯を教えてください。
【藤田】2022年に私は「あと4年で社長を交代する」と公言していました。少しだけ時期が早まりましたが、ほぼ予定通りの決定です。
ただ、この「社長交代」という決断やその時期については、ずっと以前から考えてきたことがあります。それは、創業者が会社を去るタイミングは、企業にとって最大のリスクであり、最も難しい局面であるということでした。
創業社長が大きくした会社というのは、創業者の経験値や能力、あるいはパーソナリティがその会社そのものになるケースが多々あり、そうなると誰にも引き継げない会社になっていくのです。
そして、サイバーエージェントも、27年前に私がゼロからを作り、私の総合プロデュースのような形で全体の辻褄を合わせながら成長させてきた会社です。その過程で、重大な決断、経験、情報、人脈――といった会社経営における様々な要素がすべて私一人に集中する、という構造ができあがっていきました。
当然のことですが、そうした構造の中においては、社内に歴然とした「差」が生じます。社長が圧倒的な存在になっていくのです。個人の成長機会を独り占めしてるから差がついて当たり前ともいえます。
創業社長のままでは「限界が訪れる」
そして、やがては社長の手腕に畏怖の念を抱くような空気が社内に流れはじめます。私自身も、いかに社内でフランクに接しようとしても、私が参加しているだけで会議の空気が張り詰めるようなことが、年々増えていく気がしていました。
でも実は、これは私にとっては非常に仕事がしやすい環境ともいえます。誰からも反対されないので、社内を簡単に意思統一できるし、スピード感を持った決断もやりやすいからです。株主にとっても、創業者が社長をやっている方が、生え抜きの社長やプロ経営者よりも株価パフォーマンスが高いというデータもあるくらいなので、企業価値を上げるという面においても良いのでしょう。
私は現在52歳ですが、今後70歳あるいは80歳くらいまでこの状況を続けようと思えば続けられるかもしれません。しかしながら、それをやれば自分だけさらにダントツの存在になり、次世代の経営者が育つこともなく、誰にも引き継げなくなることは目に見えてます。それに、社長はじめ上層部がずっと変わらないことに絶望した若い優秀な社員は、やる気をなくすか、転職してるかもしれません。
結局、創業社長のままではいずれ限界が訪れるのです。「一代で終わる会社」と言い換えることもできるでしょう。長年社長をやってきて、やればやるほど、年々その日が近づいていることに、ずっと焦りを感じていました。

