4年間続けた「後継者研修」の中身

――社長の交代に向けてどのような準備をしてきたのでしょうか。

【藤田】この4年間、後継者を育てるために続けたのが「社長研修」です。その上で重要だったのが、これまで自分が感覚的に行ってきた経営の勘所を、言語化して体系的に伝えることでした。そこで取り入れたのが、経営者の「決断」を追体験するプログラムです。具体的には、サイバーエージェントにおける過去の重要なターニングポイントでの決断を疑似体験するような研修を行ってきました。

例えば、「スマートフォンが登場したとき」に、どのような経営判断を行ったか。当時の市場の動向や競合他社の状況、社内のリソースなどを再現し、候補者に私と全く同じ状況に立ってもらう。

候補者は皆、私のすぐ近くで働いてきた幹部たちですが、実際に経営トップの立場に立たされてみると、そんな彼らでも「景色がこれほど違うのか」と驚いていました。背負っている責任の重さやプレッシャーが、役員と社長では全く違うことに気づくからです。

また、もう一つ力を入れたのが「引き継ぎ書」の作成です。私の頭の中にある経営のロジックや判断の基準、思考の根拠は何か……それらをすべて言語化しようと試みました。書き出してみると、項目は100以上に及びました。

選抜に時間をかけたワケ

これらを大きく4つのカテゴリーに分類し、一つひとつ箇条書きで解説を加えました。「中長期の利益と短期の数字をどうバランスさせるか」「なぜこの場面では撤退を選び、あの場面では投資を選んだのか」「トータルで辻褄を合わせるために、どのような思考回路で意思決定を行ったか」など、思考のプロセスそのものを言葉にして伝える。研修では2~3カ月に一度、候補者たちを集めて、この引き継ぎ書をもとに議論を重ねました。

そうした研修と選抜がなぜ何年にもわたって必要だったかというと、社内では、それまで創業者の私が社長を変わるなんて想像していなくて、2代目社長を本気で目指して準備している人が誰一人いなかったからです。まずは本当に社長が変わることを社内で認識してもらい、候補者に準備期間を与え、後継者を育てる企業文化を根付かせる必要がありました。そして、そうした研修と選抜を経て、満場一致で選ばれたのが山内隆裕でした。

12月12日付でサイバーエージェントの2代目社長に就く山内隆裕氏(42)
写真提供=サイバーエージェント
12月12日付でサイバーエージェントの2代目社長に就く山内隆裕氏