栗の売上だけでは年間20万円しか稼げない

【有坪】実際に来てみていかがでしたか?

【松尾】3カ月の研修後、本当に先輩農家さんから2.5ヘクタールの栗園を引き継ぎました。でも、それで食べていけるほど甘くありませんでした。そのときの栗園の収量は約500キロでしたが、それをJAに生栗として卸しても、単価が1キロあたり400円なので売上は20万円にしかなりませんでした。

【有坪】いくら田舎で住居費などが安いといっても、年商20万円では食べていけないですよね。

【松尾】はい。まわりの栗農家はどうしているのかと聞き込みをしてみると、専業で栗園を営んでいる人など一人もいなかったのです。メインの作物があったり、年金暮らしだったりと、みんな兼業でした。栗は手をかけずともある程度の収穫が維持できる、そんなスタンスです。

3年間は深夜のコンビニバイトで日銭を稼いだ

【有坪】では、とりあえず貯金を切り崩しながら生活を始めたという感じでしょうか?

【松尾】お恥ずかしいのですが、ほとんど貯金はゼロで能登に来ました。北海道の漁師生活が激務だった反動で遊んでしまったり、ちょうど地元で暮らす母が病気になって、その治療費にもお金がかかったりしたからです。

とにかく、稼ぐために日本三大朝市にもなっている「輪島朝市」で、焼き栗の実演販売をしました。最初は250グラムで1000円という価格で売り出し、手応えを感じました。いろんな経費を抜きに考えれば、生栗で卸す10倍の値段になる計算です。

ただ、それだけですぐに食っていけるほど甘くはなく、3年間はコンビニアルバイトをしながら栗農家をしました。繁忙期である秋から初冬以外は、ほぼ毎日夜の8時から朝の6時までコンビニで働き、帰宅したら寝ずにそのままお昼まで農作業をして、夕方まで寝るという生活スタイルでした。

【有坪】3年間もその生活だったんですか。それはつらいですね。

【松尾】北海道の漁師生活があったからこそ、体力的にも精神的にも乗り切ることができたと思います。逆にいえば、この僕のやり方は、安易に人には勧められませんけど。