「農業の勉強」をしてこなかったことに後悔

【有坪】振り返ってみれば、こうしておけばよかったことはありますか?

【松尾】農業の勉強をしてから農家になればよかったなと思います。剪定の技術も土作りも、知識がなく不安だから余計なことをずいぶんしました。

【有坪】もう少し具体的に教えてください。どんな失敗がありましたか?

【松尾】剪定では主枝と亜主枝があって、切るべき枝と残すべき枝があります。先輩農家さんが最初に研修で教えてくれたんですけど、まったく何を言っているか理解できませんでした。それで、インターネットかどこかの本かで「木の高さは5メートル以下がよい」ということをチラッと読んだので、10メートルくらいあった木を一気に切り落としました。そうしたら、実がつく花は日当たりが良いところにしか咲かないので、収穫量が激減してしまったことがありました。

土壌については、栽培方針に窒素やリン酸、カリウムなどの必要量が書いてあり、最初は何も考えずにその通りにまいていました。でも大事なことは、それらが今現在、土壌の中にどれだけ含まれているか。なので、無駄な施肥をいっぱいしていました。

売上高が伸びているのに利益が増えなかった

【有坪】そういった知識があれば、3年もアルバイトをする必要がなかったということですね。

【松尾】はい。それから経営の勉強もしておけばよかったと感じることもあります。というのも、収穫量の増加に伴って売上高は伸びていったのですが、利益が増えていかなかったからです。

つまり売上の増加に合わせて経費も増えていて、結果的に儲かっていない状態でした。忙しくてそのことに何年も気づいていませんでした。

【有坪】農地の規模を大きくしても、経費がかさんで手元に残るお金はあまり変わらないというのは、経営のことを理解していない農家がやりがちなことです。松尾さんはどのようにしてそれを改善したのですか?

【松尾】販売方法やビジネスモデルと密接に関係するので、現在の松尾栗園の売上から説明します。僕は焼き栗農家を自称しているのですが、その名前のとおり、売上全体に対して、焼き栗の実演販売が53%、通信販売が27%です。

【有坪】つまり「焼き栗」の販売で売上の8割を占めるわけですね。