利益率を高める報酬体系
日産自動車前会長のカルロス・ゴーン氏の逮捕で、彼の高額報酬に注目が集まりました。ゴーン氏が毎年得ていた10億円前後の報酬は、アメリカの巨大企業が彼をCEOとして招へいする可能性があったことを考慮すれば、決して高すぎることはありませんし、ゴーン氏が安すぎると感じていたとしても、おかしくはないと思われます。問題は、報酬体系の仕組みが外部にわかりにくいだけでなく、コーポレート・ガバナンスの仕組み自体が確立していなかったところにあると言えます。
そもそも、経営者の報酬はどのように決めたらよいのでしょうか。
日本企業は海外企業と比べてROA(総資産利益率)やROE(自己資本利益率)が低いことが、さまざまな研究によって示されています。アメリカでは、利益率の非常に良い企業も非常に悪い企業もそれぞれ数多く存在していますが、日本企業の多くはROAが3~6%あたりに集中しています。
こうした状況の背景には、日本企業が十分なリスクを取っていない実態があります。リスクとリターンはある程度比例する関係にあり、リスクを取らない限り、成長はありません。
では、日本企業がリスクを取って利益率を高めるには、どうすればよいでしょうか。重要な方法の1つが、経営者の報酬体系を変えることです。
日本企業の経営者の報酬は固定報酬が中心です。これを、海外企業のように業績連動報酬中心の仕組みへと変える。つまり、経営者がリスクを取るようなインセンティブ(誘因)を報酬体系に取り入れるのです。人がインセンティブによって行動を変えることは、過去のさまざまな研究によって示されています。そういう意味でも、経営者の報酬のあり方は、企業の進む方向や業績を左右する重要な要素です。
以前、日米の企業の業績と経営者の報酬の連動度をシミュレーションによって比較したことがあります。その結果、同程度の業績の向上を達成したときに、日本企業の社長の報酬は約400万円増加したのに対して、米国企業のCEOの報酬は2億850万円ほども増加しました。日米の業績に対するインセンティブに、大きな差があることがわかります。
なお、日本企業の経営者の報酬が固定報酬中心なのは、役員報酬が人事体系の1つとして位置づけられてきたためです。頑張って出世競争に勝ち抜いてきた最後の“ご褒美”として、役員報酬は位置づけられてきました。