中期経営計画づくりが、ビジネスチャンスを奪う理由

今、あなたがやっていることは、本当に今やるべき重要なことでしょうか? 重要かどうかは、それをやることによるコストとリターンだけで捉えられがちです。例えば、マンションの購入には一定のコストがかかりますが、それによって便利で豊かな暮らしというリターンが得られることで、マンション購入は成功したと言えるかもしれません。しかし、マンションの購入費用を何か別のものに投資していたら、もっと高いリターンが得られたかもしれません。また、バーゲンに出かけたことで、安い買い物ができたかもしれませんが、その時間を運動や勉強に使うことで、将来より大きなリターンを得ることができたかもしれません。このように、何かをやることで「やらなかったこと」や「できなくなったこと」を「機会損失」と言います。

ファナックは広い視野でベンチャー企業との協業を決めた。(時事通信フォト=写真)

機会損失の特徴は「見えない」ことです。そのため、気をつけようと思っても目の前のことに気を取られ、「もしこれに時間をとられなかったら何ができるか」「ほかにもっと重要なことはないのだろうか」ということにまで、なかなか注意が行き届きません。

しかし、個人も企業も資源は有限。優先順位の低いことに気を取られれば、本来やらなくてはならないことに対する投資ができなくなってしまいます。こうした機会損失は、経営においてもさまざまな場面で起こっています。

例えば、良い意思決定をするためには、まず目的を決め、その実現のためにさまざまな案を考え、その中からベストな案を選択して実行すべきです。しかし、実際にさまざまな企業の意思決定を見ると、やることを早々に決めて、そのことだけを一生懸命に考える傾向があります(決めただけでやらないのも当然機会損失です)。あるいは、最初に複数の案を検討しても、1度やることを決めてしまうと、その後はそもそもの目的や、実行による新たな情報を踏まえて別の案を考えることは、意識から抜けてしまいがちです。その結果、トップは機会損失が発生していることに気づかず、現場はそれを冷ややかに見るということが起きます。

もちろん、代替案を考えたり、当初の計画を変更することは、時間の浪費という考え方もできるので、やることを早く決めたほうがいいという見方もできます。しかし、技術革新などで環境が変化しやすい現在、機会損失はとても起こりやすくなっています。例えば、自動車のエンジンのある部品に関して技術の粋を極めていっても、今後モーターが主流になれば、そのエンジン部品の技術は不要になってしまいます。こうした環境の変化が起きても対応できるように、広い視野を持つことはますます重要になっています。

また、多くの企業が中期経営計画を作っています。計画はもちろん必要ですが、優秀な人材を使い、何カ月もかけて作るだけの価値が本当にあるのでしょうか。そうした計画がどれだけ役に立っているのでしょうか。次のような機会損失の可能性があります。