改善を突き詰めると改革は進まない

機会損失を最小化するには、どうすればよいでしょうか。1つは、目先のことだけにとらわれないように、広い視野を持ち続けることです。資源は限られていますから、その資源をどう配分するか、やるべきことの優先順位を俯瞰して考えることが重要になります。また、決定したことにはコミットする一方で、「ほかに代替案はないか」を常に意識することも大切です。今のビジネスを極めることは重要ですが、一方で次のビジネスも考えておく必要があります。

それを1人の頭の中でやることは、二律背反的なところがあるので難しいかもしれません。その場合は、あえて視野を広げて考える時間をつくるようにするか、あるいは別の見方で指摘してくれる、信頼できる第三者を持つことが大切になります。

組織的に見ても、1つの部門で従来の事業と新たな事業を両方やるのは難しいものです。「改善を突き詰めると、改革は進まない」とはよく言われることです。主流の事業を担っている部門に新しいことをやれと言っても無理があります。したがって、会社のポートフォリオとして、従来の事業を担う部門から新しい事業を担う部門を既存の資源へのアクセスをうまく担保して分けることも1つの方法です。

また、社内だけでなく、社外のパートナーとアライアンスを組んで新たな事業に取り組む方法もあります。そのほうが、社内の既存事業との軋轢を避けることができ、また協業を通じて異なった文化を取り入れることもできます。産業ロボット製造などで知られるファナックが、ベンチャー企業のプリファード・ネットワークスと共同でロボット用のAI(人工知能)を開発しているのは、その一例でしょう。

ただ、難しいのは、機会損失を最小化するために複数の可能性を追求しすぎると、無駄が出てくることです。かといって、コストを突き詰めすぎると、今やっていることはうまくいっても、次の芽が育たなくなります。そのバランスこそが個人でも企業でも「差別化」のカギを握ります。

清水勝彦(しみず・かつひこ)
慶應義塾大学大学院経営管理研究科教授
テキサスA&M大学Ph.D.。コーポレイトディレクションでの戦略コンサルタント、テキサス大学サンアントニオ校准教授(テニュア取得)等を経て、2010年より現職。専門は組織変革、戦略実行、M&A。近著に『機会損失「見えない」リスクと可能性』。
(構成=増田忠英 写真=時事通信フォト)
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