「バカな上司」「無能な部下」の関係を抜け出す方法

日本企業は今、イノベーションの創出や働き方改革など、さまざまな変革を求められています。しかし、「新規事業が出てこない」「変わらなければいけないのに、なかなか変われない」という組織は多いのではないでしょうか。どうすればよいでしょうか。

上司も部下も自分の道具のように扱ってはダメ。(PIXTA=写真)

私が多くのビジネスパーソンと接していて感じるのは、新しい知識などを一生懸命勉強している一方で、それを実践することができていないということです。そのために、状況がなかなか変わらない。こうした知識と実践の間のギャップを、組織論研究者のジェフリー・フェファーとロバート・サットンは「Knowing-Doing Gap」と呼びました。彼らは、このギャップが起こる要因として、成果主義を背景とした「失敗を避けたい」という意識や、問題を共有しないことによる組織の硬直化などを指摘しています。

問題があることを認識していても、自ら行動することなく、問題を解決してくれる“救世主”を待っている人が多いのではないかと思います。問題を解決してくれる新しいコンセプトやツールがどこかにあるのではないか、あるいは、よいリーダーがいれば変わるのではないか――しかし、閉塞感の中でも少しずつ変革をしていく余地があることに自ら気がつかない限り、組織を変革することはできないでしょう。

一方、イノベーションにつながるような新規事業は、組織内で淘汰されやすいという現実があります。

経営学者クレイトン・クリステンセンの「イノベーションのジレンマ」という有名なコンセプトがありますが、その元となった理論の1つに、経営戦略の研究者であるロバート・バーゲルマンの「資源配分プロセス理論」があります。「社内で生まれたアイデアは、資源配分を受けなければ事業化されることはない。資源配分プロセスこそが、事業創出のキーである」という理論です。そのうえで、新規事業が生まれにくい要因として、「共進化ロックイン」という概念を提示しました。

イノベーションは、合理的には生まれない

企業は既存の事業が好調な場合、その市場の成長に合わせて既存事業を成長させるために、戦略的にその既存事業に経営資源を集中させようとします。この結果、市場と戦略が共進化して成長しますが、その関係に資源配分が固定化(ロックイン)されるという弊害が生じます。現場では、既存事業に注力するよう強いプレッシャーがかかるため、新規事業のアイデアが生まれにくくなります。また、新規事業のアイデアがミドル層の社員に上がったとしても、ミドルは既存事業よりも新規事業への資源配分が合理的であることをトップに説明しなければなりません。しかし、既存事業のほうが確実性が高いため、ミドルは自分のキャリアを考慮し、新規事業を却下します。