できる管理職が辞めていく。「なぜだ」。社長の側近と思われていた人物の退職に、社内に激震が走る。経営者にとっては、寝耳に水だが、本人は何カ月も、何年も前から考えていたことだろう。労働問題を扱う島田直行弁護士は「管理職を軽視する経営者が後を絶たない」と言う。あなたは、あなたの会社は大丈夫だろうか――。
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え、あの人が……

会社には、「組織」というものがある。いかなる組織が理想的であるかの議論は尽きないが、普遍的に正しい組織の在り方というものはない。変化する環境に合わせて組織を変えていくことこそ、社長の役割と言えるだろう。とは言うものの多くの会社では、従来通りのピラミッド型組織を採用しているはずだ。トップに社長がいて、社長の指示を受ける中間管理職がいて、そして現場で動く社員がいる。

このところ、中間管理職の退職を目にすることが続いた。「えっ、あの人が」という人が辞めてしまう。能力も人柄もいいのに退職してしまう管理職について、原因を考えてみたい。

何でもやらされ、責任も取らされる

(1)業務範囲が広すぎる

管理職というのだから管理する対象があるはずだ。だが「あなたの役割は何を管理することですか」と質問しても、「部下の育成」「営業」といったなんとも曖昧な言葉しか返ってこない。何を管理するのか明確ではないのだ。つまるところ、ある部署における部下の売上管理からクレーマー対応まで、業務の空白部分を何でも引き受けることになる。

日本の管理職は、純粋な管理職ではなくプレイングマネージャーと言われることがある。横文字で表現されるとなんとなく響きがいいが、簡単に言えば、管理とともに現場の仕事もするというものだ。現場で自分自身の数字もあげたうえで管理職として雑多な業務を引き受けるとなると、対応するべき業務は際限なく広がっていく。

それなのに社長からわかったように「生産性の向上を」と問われると、腹も立つ。社長の号令ひとつで生産性があがるほど簡単な話ではない。業務量の拡大と生産性の向上という板挟みのなかで、辞表を書き始めることになる。

(2)責任だけ追及される

「パパは部長になったのよ」と家族が祝ってくれるイメージは、もはや幻想かもしれない。そもそも夕食の時間までに帰宅できない管理職が少なくないのが現状だろう。とある居酒屋で、知り合いから「先生、管理職なんて悲しいものですよ。上から叩かれ、下から突きあげられ」と愚痴に付き合わされた。「どんまい」としか回答のしようがなかった。

社長は、難しい案件や新しい案件ほど優秀な管理職に依頼する。それは至極当然なことだ。だが、いくら部下が優秀であっても、新しいことに挑戦すれば失敗する可能性も高くなる。それなのに失敗の責任を特定の管理職の責任にするのは失礼な話だ。そんなことをしていたら、誰もリスクをとるようなことをせず挑戦もしなくなる。

裁量を与えることと丸投げすることは意味が違う。裁量を与えるということは、「管理職に任せるが、責任は社長がとる」ということだ。業務は増えて責任も増えるとなれば、管理職になろうという気持ちにもなりにくい。