会社が行き詰ったとき、経営者は「何かを根本から変えなくては」と思う。そんなとき、頭に浮かぶことの1つが整理整頓だろう。机周りから始まった整理整頓を極めようとすると、最後はトイレ掃除に行きつく。「トイレ掃除で会社がよくなるなんて、精神論にすぎない。効果なんかあるわけがない」と嫌う人も多いが、「トイレ掃除」を愛する経営者は少なくない。掃除で会社はよくなるのか。規模を問わず、全国の企業に掃除を指導している日本そうじ協会理事長の今村暁さんに聞いた――。
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ゴミが、ささやいてくる

昔話をさせていただきたい。

私は今、企業に掃除の指導をしているが、かつて、不登校児を対象とした塾をつくって、子供たちと向き合っていた。日本長期信用銀行に新卒で就職したあと、人材教育の仕事をしたいと思い、3年目で銀行を辞め、学習塾を始めた。不登校児に特化すれば、困り果てた親たちが集まってくるだろうと高をくくっていた。しかし、現実は甘くなかった。

まず、思ったほど生徒が集まらなかった。入塾してくれても、次の日には来なくなった。経営状態は厳しくなり、自分が困り果ててしまった。しかたないから、塾に来なくなった生徒たちの家庭訪問を始めると、ある傾向に気づく。引きこもっている子たちの部屋は、散らかっていることが多かった。

ひどい場合、散らかっているどころではない。椅子は倒れ、ペットボトルが散乱している。窓を開けないから、空気も淀んでいる。大げさではなく、これこそがゴミ屋敷だ。試しに、ある生徒の部屋を一緒に掃除してみた。すると、彼の表情がみるみる明るくなり、なんと、自ら塾にやってくるようになった。

それまでの私は、子供たちに目標や夢を与えれば、結果が出ると思い込んでいた。しかし、そうではなかった。

不登校の子たちは、何年間もゴミだらけの部屋にこもり、「もっとがんばれ」「学校くらい行け」と親に言われ続けていた。部屋にたまったゴミからも「おまえはダメなやつだ」とささやき続けられていた。完全に自信を喪失し、目標や夢なんて、まったく見えない。そんな状況だから、ゴミが吐く全人格否定のささやきを消してやるだけで、引きこもりの子たちには、大きなことだった。