ゴミが、ささやいてくる
昔話をさせていただきたい。
私は今、企業に掃除の指導をしているが、かつて、不登校児を対象とした塾をつくって、子供たちと向き合っていた。日本長期信用銀行に新卒で就職したあと、人材教育の仕事をしたいと思い、3年目で銀行を辞め、学習塾を始めた。不登校児に特化すれば、困り果てた親たちが集まってくるだろうと高をくくっていた。しかし、現実は甘くなかった。
まず、思ったほど生徒が集まらなかった。入塾してくれても、次の日には来なくなった。経営状態は厳しくなり、自分が困り果ててしまった。しかたないから、塾に来なくなった生徒たちの家庭訪問を始めると、ある傾向に気づく。引きこもっている子たちの部屋は、散らかっていることが多かった。
ひどい場合、散らかっているどころではない。椅子は倒れ、ペットボトルが散乱している。窓を開けないから、空気も淀んでいる。大げさではなく、これこそがゴミ屋敷だ。試しに、ある生徒の部屋を一緒に掃除してみた。すると、彼の表情がみるみる明るくなり、なんと、自ら塾にやってくるようになった。
それまでの私は、子供たちに目標や夢を与えれば、結果が出ると思い込んでいた。しかし、そうではなかった。
不登校の子たちは、何年間もゴミだらけの部屋にこもり、「もっとがんばれ」「学校くらい行け」と親に言われ続けていた。部屋にたまったゴミからも「おまえはダメなやつだ」とささやき続けられていた。完全に自信を喪失し、目標や夢なんて、まったく見えない。そんな状況だから、ゴミが吐く全人格否定のささやきを消してやるだけで、引きこもりの子たちには、大きなことだった。