日本の中堅・中小企業で、活発になりつつあるM&A。この企業規模のM&Aでは、とりわけ「新社長を誰が務めるか」が成否のカギを握るという。人は理屈ではなく、感情で動く。言葉の中身、行動の中身が、説得力に大きく関わる。トップと社員の距離が近い中堅・中小企業では、とくにトップの人望が重要になる。社員の心をつかみ、早々にビジネスを軌道に乗せる新社長には、共通点がある――。
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「誰がやるか」が成否を決める

日本の中堅・中小企業間のM&Aにおいて、「何をやるか」「どうやるか」という方法論の他に、ポストM&Aの行方を左右する大切な要素がある。その要素とは「誰がやるか」、つまりは人だ。議論をしているときに、「この人が言うなら納得できるが、同じことを他の人が言っても受け入れられそうにない」と感じた経験はないだろうか。

突き詰めれば、人は理屈ではなく感情で動く生き物であり、言葉の内容や行動の中身よりも、「誰が言ったのか」「誰がやったのか」に注目して物事を判断しているものだ。

言われた言葉やその内容が同じでも、それを発言する人物の人柄や実績、立場、見た目の印象によっても、説得力は変わる。誰もが認める人格者に「嘘をついてはいけない」と言われれば聞くことができるが、嘘ばかりつく人に同じことを説かれても、納得はできないだろう。

同じことは、ポストM&Aのプロセスにおいても起きる。正しいことを行ったとしても、新社長やポストM&A担当者といったポストM&Aを推進する立場のリーダーが、ちょっとした言動や判断を間違い、適切な影響力を発揮できないと、プロジェクトが計画どおりに進まなくなることがあるのだ。

では、どのような人物に主導してもらうとポストM&Aはうまくいくのか。ポストM&Aを成功に導くリーダーの人物像に焦点をあてて解説していこう。

M&A巧者の3つの共通点

ポストM&Aの最重要プレーヤーは誰かといえば、M&A後に売り手企業を率いる経営者(新社長)だろう。新社長は、文字どおり新しく就任するケースもあれば、売り手企業のオーナー経営者が留任し、引き続き経営を見るケースもある。

前者の場合には、3つのパターンがあり、「買い手企業からの出向」「売り手企業社内からの昇格」「外部から招聘」である。一般的には、買い手企業が事業会社の場合は自社から出向させ、ファンドの場合は外部から招聘するケースが多い。

一方、オーナー経営者が留任する場合は、数年後の退任を視野に入れつつ、段階的に経営から退くケースがほとんどだ。本人は退任する意向でも、買い手企業が「しばらくはアドバイザーとしての役割を頼みたい」「次の経営者が育つまで」などと慰留することも少なくない。