みるみる美しくなった会社
福岡県筑後市に九州木材工業という社員70名の会社がある。規模は小さくても歴史があり、創業から90期以上連続黒字を続けている優良企業だ。そんな会社の社長が社員2人を連れ、私が主催する研修にやってきた。社長に話を聞くと、「全体が緩んでいる」と危機感を隠さなかった。自分なりに2年ほど掃除に取り組んでいたが、まったく根付かず、社員から不平不満が噴出したという。
それもそのはずで、社員に就業時間外の「サービス」で掃除をさせ、社長自身が率先垂範で動いていない、という「定番の失敗」をダブルで犯していた。初回の研修を終え、掃除の「肝」をつかむと社長はすぐに動いた。1日丸ごと臨時休業し、会社の不用品を整理した。なんと4.6t分が会社から消えたという。さらに、就業規則を変えた。始業時間を早くし、社員に「仕事」として掃除をしてもらうようにした。
私が現地を訪ねると、応接室に社員15人くらいがそこに入り、新入社員から社長までが一緒に床に這いつくばっていた。おしゃべりしながら、楽しそうに、コミュニケーションを取りながら、みんなで掃除をする姿があった。社長が本気になり、社員がそれについてきた九州木材工業は、みるみる会社が美しくなっていった。
営業に行くな。うちに連れてこい
社員が一丸となり、見た目にも美しくなった九州木材工業には、大きな変化が訪れた。以前は、社長が営業マンに「もっと外に行け!」と発破をかけていたが、今では「営業に行くな」と言っているらしい。訪ねてきた客が「こんなキレイな工場は見たことがない」と褒めてくれる。自信を持った社長は、「営業に行くのではなく、お客様に会社に来てもらえ」と言うようになったのだ。九州木材工業の製品は高単価でリードタイムが長いが、工場を見た客に「この会社なら信用できる」と高く評価され、主力商品の契約がどんどん増えている。
掃除で会社がよくなる理由について、多くの人は「整理整頓すると生産性が上がって、儲かるんでしょ」「スッキリするから、仕事がはかどるんでしょ」「コスト削減できるから利益が増えるんでしょ」などと言う。ハズレではないが、すべてを表現していない。私が考える掃除とは、社長をはじめ、社員たちが会社ごとにある理念やビジョンを突き詰めて、それに沿った振る舞いを身につけるトレーニングだ。
トレーニングを積んだ人・会社がよい結果を残すのは、ある意味当たり前だ。また、トレーニングなのだから、ここまでやったら終わりというゴールはない。よい会社が掃除を続ければ、さらによくなる。最後に、掃除の場所としてトイレを選ぶ社長が多いのは、会社で一番汚れた場所を自分でやることで、社員に自分の本気・覚悟を見せることができるからだ。