組織の痛みや恐れは、リーダーが対処する

一方の適応課題は、既存の方法では対処できない問題、つまり、答えのない問題です。組織における問題は、ほとんどが適応課題といえるでしょう。適応課題を解決するには、「我-汝」の関係性の構築が必要になります。そのためには、変化という痛みや恐れが伴います。その痛みや恐れを乗り越える支援をすることが、リーダーシップの役割だとハイフェッツは述べています(アダプティブ・リーダーシップ)。

実際に私が受けた相談から、2つの例を紹介します。Aさんの会社では個別の業績管理を行っており、Aさんは上司に、横の連携を深めるための取り組みを提案しました。すると上司から、そんな必要はないから、自分の仕事をしっかりやるように言われたそうです。この場合、上司には、その取り組みによってパフォーマンスが一時的に低下し、会社から制裁を受けるかもしれないという恐れが生じます。そのことを踏まえて、上司にも受け入れられる提案を考える必要があります。

もう1つは上司の例です。Bさんは社内ベンチャー制度を導入しましたが、初年度こそ提案があったものの、翌年度からは提案が出てこなくなったそうです。そこでBさんから、もっとモチベーションを高めて主体的に行動できる社員を育てるにはどうすればよいか、と相談を受けました。初年度はどんな提案があったか聞くと、箸にも棒にも掛からない提案ばかりだったので、徹底的なダメ出しをしたそうです。この場合は、Bさんが自分自身を改めない限り、課題は解決しないでしょう。

冒頭に述べたKnowing-Doing Gapがなぜ起きるのか。その根本要因は、このように組織の文脈/関係性に問題があるからだと私は考えています。そのために物事は何も変わらず、進んでいかないのです。この関係性を改めていくことによって、よりよい組織をめざすのが、「ナラティヴ・アプローチ」による組織づくりです。ナラティヴとは語り、物語のことです。ナラティヴ・アプローチとは、自分が囚われているドミナント・ストーリー(支配的な物語)を脇に置き、対話することによって互いの接点を見出し、よりよい実践につなげるための取り組みです。

組織の中で考えや立場の異なる存在と対峙した場合は、両者の間に溝があることをまず認めて、そのうえで対話をし、橋を架けることから始めるとよいでしょう。

宇田川元一(うだがわ・もとかず)
埼玉大学大学院人文社会科学研究科准教授
早稲田大学アジア太平洋研究センター助手、長崎大学経済学部講師・准教授、西南学院大学商学部准教授を経て、2016年より現職。専門は経営戦略論、組織論。イノベーティブで協働的な組織のあり方とその実践について研究を行っている。
(構成=増田忠英 写真=PIXTA)
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