1980年代以降に生まれた、メディアアーティストの落合陽一氏、メタップスの佐藤航陽会長、SHOWROOMの前田裕二社長。なぜ彼らのビジネスは成功しているのか。経営コンサルタントの神田昌典氏は「彼らは、松下幸之助や渋沢栄一と同じで、社会変革をビジョンに掲げ、人の共感やお金を集めることができる」という――。

※本稿は、神田昌典『インパクトカンパニー』(PHP研究所)を再編集したものです。

共生を望む新世代の経営者たち

メタップスの佐藤航陽会長は1986年生まれ、SHOWROOMの前田裕二社長や日本クラウドキャピタル代表取締役COO(最高執行責任者)の大浦学氏、筑波大学の学長補佐でメディアアーティストの落合陽一氏らは、全員1987年生まれだ。彼らは1980年より前に生まれた「ウルトラマン世代」と何が異なるのだろうか?

メディアアーティスト、筑波大学助教授 落合陽一氏(写真=時事通信フォト)

今挙げた経営者の何人かとは直接話したこともあるのだが、彼らと会話をしていると、旧世代の経営者とは明らかに違う点がある。それは、仕事の展開がスピーディなこともさることながら、これまでの世代とまったく異なる価値観を持っているということだ。

その価値観とは何か。

それは、皆で共生できるよう、「世の中をどのように作り上げていくか」という社会変革に強い興味を示す、ということだ。たとえば、SHOWROOMの前田氏は「機会格差をなくす」「努力した人が報われる社会をつくりたい」というビジョンを掲げているし、メタップスの佐藤氏は「経済の民主化」を推進する。日本クラウドキャピタルの大浦氏も、やりたいことは「起業を目指す若者や女性が資金調達できるような環境を作ることで、日本経済を元気にする」ことだという。

もちろん日本企業の特徴は、そもそも社会性の高さにあった。「日本の資本主義の父」と呼ばれる渋沢栄一は、道徳経済合一説に基づき、富は全体で共有するものとして社会に還元することを徹底したし、またパナソニックの創業者・松下幸之助は、「一番大切なのは利益じゃない」と断言し、「貧困をなくすこと」を使命とした。

経営者の先祖返りが始まった

こうした社会貢献意識の高さは、日本企業の成長の原動力であり、まさにその結果、戦後の奇跡的復興を遂げてきたのであるが――、1980年代から日本企業が世界規模で活躍するようになると、株主利益を優先し、時価総額の最大化を目標とする、グローバル標準の経営が評価されるようになった。

そのピークが、不幸にも「拝金主義」というレッテルを貼られてしまった旧来のヒルズ族だったが、彼らの変革スピードの早さは、既得権益にとって脅威だったためか、堀江貴文氏をはじめとする7人が有罪とされたライブドア事件を引き起こした。

1980年世代の経営者は、こうした金銭的成功の光と影の両面を、自我が芽生える小中学生の時からテレビで見ている。だから、お金に対してさしたる興味を示さない。IPOや事業売却で巨額のお金を手にして、セミリタイアなんてことは口にもしない。社会問題の解決、社会変革を第一に考えているのだ。

「最初から社会変革など、甘いのでは?」と思うかもしれないが、それは逆だ。そうしたビジョンを持っているからこそ、彼らのもとには、一緒に働きたいという人や協力してくれる先輩経営者が集まってくるし、資金も集まってくる。だから、超速で事業を立ち上げられ、さらに伸ばしていけるのだ。

彼らが意図しているかどうかはともかく、日本企業の経営者の、先祖返りが始まっているといってもいい。