多くのタスクがあるとき、どんな順番でそれを終わらせますか? 2018年1月から立命館アジア太平洋大学(APU)の学長に就任し、多忙を極める出口治明さんは「緊急度順で仕事をしているうちは、本当の『プロ』とは呼べない」といいます。その心とは?

※本稿は、出口治明『知的生産術』(日本実業出版社)の一部を再編集したものです。

後回しが許される仕事はない

仕事は、規模の大小や難易度に差はあっても、「必要か、必要ではないか」という点で考えれば、どれも必要です(ただし、上司は、単なる思いつきや自己満足のために部下に仕事を振ることが多々あるので、そういった思いつきの仕事は除きます)。

したがって、「後回しが許される仕事はない」というのが僕の持論です。

僕がはじめて管理者になって、係長研修を受けたときのことです。

研修を受けている僕たちに、たくさんの未決の書類が入ったボックスが渡されました。そして、「今は金曜日の午後2時です。午後3時にはお客様のところへ行くために会社を出なければなりません。この仕事を時間内に処理しなさい」というテーマが与えられたのです。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/Artur)

僕は書類の量をジッと見て、「どうすれば早く終わるか」を一所懸命に考え、「上から順番に」処理をしました。

与えられた時間は1時間でしたが、僕は、40分ちょっとですべての案件を処理することができたのです。

ところが、この研修の僕の評点は「A評価」ではなく、「B評価」でした。時間内にすべての案件を処理したのに……、です。研修講師は、評価の理由を次のように説明しました。

B評価をくだした講師と口論に

「出口君は、仕事の速度も素晴らしく処理の結果も優秀ですが、やり方がまちがっています。全部の書類にザッと目を通して、優先順位の高いもの、緊急度が高いものから処理するのが正しいやり方です。仕事の優先順位を見極めるのも管理者に求められる能力です。処理能力が非常に高かったので『B評価』にしましたが、本当なら『C評価』です」

その評価に納得できなかった僕は、ついカッとなって、「すべての案件を時間内に処理することがマストだと思います。書類の厚さ(量)を目で測り、1時間で処理できると判断したので、上から順番にこなしたまでです」と言い返したのです。

同僚たちは、「講師に向かってあんなアホなことを言ったら、人事に睨(にら)まれるぞ」と笑っていましたが、僕と講師の口論はそれだけでは終わらず、寮の大浴場でも続きました。