だって、良い孤独は「自分と向き合う貴重な時間」だからです。積極的に自らを孤独に追い込むと、人間の深部に組み込まれている「誰かと関わりたい」プログラムが、勝手につながる相手を「自分」にセットしてくれます。自己との対話が始まるのです。

すると「このままでいいのかな? この先大丈夫かな?」と無性に不安になる。でも、その時間は自分の市場価値を見極める貴重な時間でもあります。他者に評価されるのではなく、自分で自分を評価する。年齢に関係なく輝いている人は、例外なく「ありのままの自分」を受け入れています。

自分の市場価値を知るのはとても恐いものです。でも、社会における自分の立ち位置をしっかりと見つめるまなざしを持てたとき、初めて「自分に足りないモノ」「自分がやるべきこと」「自分のやりたいこと」が明確になります。それは人間のポジティブな機能のひとつである「人格的成長(Personal growth)」という、「自分の可能性を信じる」感覚のスイッチを見つけた瞬間です。そこで「自分がやるべきこと」「自分のやりたいこと」に向けて一歩踏み出せば、「将来不安」が「光」に変わります。

真の自立を手にすれば、将来への不安は消える

不安の反対は安心だと思いがちです。でも、どんなに安全地帯を見つけたとしても、また「不安」が頭をもたげてきます。不安の反対は安心ではなく、一歩前に踏み出すこと。前を向き「自分がやるべきこと」「自分のやりたいこと」に向けて動いていれば、不安に押し潰されることも、生きる力が萎えることもありません。先輩たちのキャリアパスがまったく参考にならない雇用環境に投じられている今の中高年男性たちだからこそ、あえて「良い孤独」の時間を持ってほしいのです。「ダメな自分」「足りない自分」「もっとできそうな自分」と向き合ってください。

「この先、大丈夫か?」という曖昧な不安の奥底には、「自分だけは運よく、少数の『必要とされる人』に紛れ込めるかもしれない」と密かに期待する自分もいるため、「見て見ないふり症候群」に陥りがちです。人は見たいものだけ見て、自分に都合よく認知する性癖がありますが、「自分と対話する時間=良い孤独の時間」を持てば、それが虚構だったことに気づくはずです。誰の心にもある「一歩踏み出す勇気」を引き出してくれるのが「良い孤独」です。そして、もし、前に踏み出す勇気が持てなければ「他者」の傘を借りてください。ふと顔が浮かんだ知り合いに連絡をして、たわいもない話をしたりするだけでいいのです。カッコ悪かろうとも他人の力にすがれば、可能性は無限大に広がります。

真の自立は依存の先に存在します。近い将来「悪い孤独」に心身を蝕まれ不幸な結末を迎えないよう、まずはアナタが誰かに傘を差し出し、誰かの「たったひとり」になることから始めてください。

河合 薫(かわい・かおる)
健康社会学者、気象予報士
千葉大学教育学部卒業後、全日本空輸入社。その後気象予報士を経て、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。現在は「人の働き方は環境がつくる」をテーマに学術研究、講演、執筆活動などを行う。著書に『残念な職場』『他人をバカにしたがる男たち』ほか。
(編集=干川美奈子 写真=PIXTA)
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