今から3年前、ある一本の論文が話題になりました。タイトルは“Social relationships and physiological determinants of longevity across the human life span”。「社会的つながり」と「心臓病や脳卒中、癌のリスクなど」の因果関係を、米ノースカロライナ大学チャペルヒル校社会学科研究グループが分析をしたものです。

孤独に関する研究は2000年代に入ってから急激に増え、「孤独が及ぼす影響は“皮膚の下に入る”(Loneliness get under the skin)」との知見が得られていました。

ここでの孤独とは「『社会的つながりが十分ではない』と感じる主観的感情」のこと。家族といても、職場にいても、ときとして堪えがたいほど感じるネガティブな感覚です。孤独感を慢性的に感じているとそれが血流や内臓のうねりのごとく体内の深部まで入り込み、心身を蝕んでいくことが、いくつかの研究から示唆されたのです。

とはいえ、何が、どのように、どういう人に影響するかはわかっていませんでした。そこで研究グループは、2万人近い大規模な年齢層(若年、壮年、中年、老年)の縦断データを用いて定量的に分析。「社会的つながり」を、「広さ」(社会的統合)と「質」(社会的サポート)に分けて得点化し、健康度を示す変数との因果関係を調べました。「広さ」とは、結婚の有無や、家族、親戚、友人との関わり合い、地域活動、ボランティア活動、信仰に基づく活動など、「質」とは、「互いに支え合う関係にあるか」「互いのことをわかり合えているか」「自分の本心を出せるか」といった心の距離感の近さです。

孤独のなかにも「良い孤独」がある

分析の結果、人間関係の「広さ」は若年期(10代~20代)と老年期(60代後半以上)の人たちの健康に、また、人間関係の「質」は、壮年期(30代~40代前半)から中年期(40代後半~60代前半)の人たちの健康に、大きく影響を及ぼすことがわかりました。つまり、「若いときはたくさん友だちをつくり、ネットワークを広げ、ジジババになったらいろいろなサークルに行けば健康でいられるけれど、将来への不安が高まるミドルになったら、信頼できる(親密な)友人が必要だよ! ひとりも友だちがいないと、早死にしますよ!」という警告が示唆されたのです。

世間では「孤立は悪いけど孤独はいい」という意見がありますが、この調査結果を鑑みればそうとも言い切れません。また「孤独=悪」と問題視する傾向もありますが、個人的には孤独には「良い孤独」と「悪い孤独」があると考えています。

その境界線を決めるのが「心の距離感の近い人」の有無です。たったひとりでも、いざというときに頼れる人がいればいいのです。そういう人がいる人は、むしろ積極的に「めんどうくさい人間関係」から解放される孤独な時間を楽しんでください。