不正を全面否定する文書を読み上げ、すぐに退席
わずか7分の記者会見には唖然とさせられた。国内外の報道機関70社、記者やカメラマンら140人を集めながら、一切質問に応じずに終わらせてしまう。集まった報道陣の背後に多くの読者や視聴者がいることを考えないのか。記者会見によって社会に訴える術があることを知らないのだろうか。
東京五輪の招致活動をめぐる不正疑惑で1月15日、当時の招致委員会理事長だった竹田恒和・日本オリンピック委員会(JOC)会長(71)が東京都内で記者会見した。フランスの検察当局は、竹田氏が贈賄に関与したとの容疑で本格的捜査に乗り出している。これに対し記者会見を開いた竹田氏は、不正を全面否定する文書を読み上げただけで、そのまま会場から姿を消してしまった。文書は竹田氏の一方的な言い分だった。
この日、ニュース番組では、報道陣から「質問を受けて下さい」「なぜ答えないのですか」という声が次々と上がって騒然とする会見場の様子を放送していた。
「7分会見」の竹田氏は甘くて愚かだ
実は、記者会見直前の15日未明にJOC広報からメディアに「フランス当局が捜査中なので質問を控えてほしい」という内容のメールが届いていた。さらに会見でも再度、同様の内容が告げられた。
質疑応答を行わない旨は、事前に通知されてはいた。とはいえ、たった7分で会見を打ち切るのは非常識だ。捜査中だから対応できないというのは逃げの常套句だ。なぜ、きちんと説明責任を果たそうとしないのか。これでは世論の反発を買う。立場を悪くするだけである。日本国内だけではなく、世界が注目している。国際世論は国内の世論以上に手厳しい。「旧皇族で明治天皇のひ孫」という血筋に甘えたのか。竹田氏は甘すぎる。
せっかく大勢の報道陣が集まったのだから、それをテコに自らの正当性を伝える絶好のチャンスだった。きちんとアピールできれば、世論が味方に付いてくれたかもしれない。竹田氏は愚かだった。
「フランスの報復説」が浮上しているが……
冒頭部分でフランスの検察当局が本格的捜査を始めたと書いたが、フランスでは検察の予備的捜査を経た後に重大な事件と判断されると、今度は判事が公判前に自ら捜査する「予審」という手続きに入る。判事はこの予審を経て容疑者を刑事裁判の被告として起訴するかどうかを決める。
フランスの有力紙ルモンドなどによると、フランスの検察は昨年12月10日に予審の手続きに入った。竹田氏には東京への五輪招致が決まる直前、日本円に換算して2億3000万円の不正なお金が動く贈収賄事件に関与したとの容疑がかかっている。
そこで浮上しているのが、フランスの報復説である。日産自動車のカルロス・ゴーン前会長に対する日本の検察の捜査に対し、フランスの検察当局が反発して竹田氏を血祭りに上げようと画策しているとの見方だ。