「コスモス薬品」という新業態

野方店の店頭で話をしていたときのことだ。横山はドンという音のあと、赤ん坊の泣き声がしたとたんに、あたりを見回し、声の主を探した。

「どうしたんですか」と聞いたら、「いや、お子様が何かにぶつかったのかと思って……。ああ、スタッフが飛んでいきましたから大丈夫ですね」

もともと、販売現場から昇進した横山は店頭に来ると、販売員そのものの意識になり、店のことが気になってしまうのだろう。

「当社の採用基準は『まじめで一生懸命かどうか』です。そんな『純情』な仲間と一緒に仕事をして、感動の共有をする。それが創業者の方針であり、会社の考え方です。

当社では各店の店長が、お客さまからいただく感謝の言葉、目標を達成した喜びを全スタッフの前で話をし、共有しています。小売業は人が働く労働集約型の産業です。製造業のような最先端の技術力よりも、人を愛する人間、人が大好きな人間が築く力が強さに変わると思います」

コスモス薬品は業界誌などでは「ドラッグストア業界では5番目」とされている。しかし、現場に行ってみると、同業他社とはかけ離れた独自の業態になっている。そして、現場の言葉も「純情」とか「繁盛店はつくらない」といった業界常識とはまったく違うものだ。

コスモス薬品とはドラッグストア業界のなかの1社ではない。「コスモス薬品」という新しくできた業態だ。

野地 秩嘉(のじ・つねよし)
ノンフィクション作家
1957年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業後、出版社勤務を経てノンフィクション作家に。人物ルポルタージュをはじめ、食や美術、海外文化などの分野で活躍中。著書は『高倉健インタヴューズ』『日本一のまかないレシピ』『キャンティ物語』『サービスの達人たち』『一流たちの修業時代』『ヨーロッパ美食旅行』『ヤンキー社長』など多数。『TOKYOオリンピック物語』でミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。
【関連記事】
セブンが勝てない「最強コンビニ」の秘密
顧客満足V7「コスモス薬品」激安の秘密
コンビニの「サラダチキン」を食べるバカ
ヤバい病院は「待合室」を見ればモロバレ
医師が教える"絶対に風邪をひかない方法"