トラックの造り方は乗用車とは大きく異なる。走行距離がはるかに長く、用途もさまざまだからだ。事実上の「注文生産」でありながら、基本部分は1500万円程度。なぜこの金額で造れるのか。ノンフィクション作家の野地秩嘉氏が、国内では最多の生産台数を誇る日野自動車古河工場を訪れた――。

トラックという「車」の稼働率はとても高い

日野自動車古河工場(撮影=石橋素幸)

日野自動車は普通トラック(大中型トラック)の国内トップシェアを誇るメーカーだ。トヨタ自動車が株式の過半を保有しており、現在は同グループの一社となっている。バスも造っており、2004年からはいすゞとの合弁会社ジェイ・バスで生産している。

売上高は約1兆8300億円(18年3月期)、全世界に3万人の従業員を抱える巨大企業だ。17年9月から本格稼働した古河工場の他、小型トラックを造る羽村工場、エンジンを造る群馬の新田工場、そして縮小しつつある日野工場の4つを持つ。メインの古河工場の年間生産台数は約5万台(18年1~12月)。国内のトラック工場では最多である。

日本で生産している乗用車の生産台数は約830万台であるのに比べ、トラックは約130万台だ。このなかには輸出分も含まれている。トラックは乗用車に比べると、ぐっと生産台数は少ない。

ただし、トラックという車の稼働率はとても高い。個人が保有する乗用車は平均すると、4%しか動いていないと言われている。あとの時間は駐車場にいるわけだ。

一方、業務用トラックはドライバーが交代して運転するから、昼夜を問わずほぼ稼働している。1カ月の走行距離は平均すると、約1万km。15年の稼働期間で100万kmは走るという。

アジアと米国で伸びるトラック需要

「トラックは“働くクルマ”なんです。そして、乗用車とは造り方も違います」

教えてくれたのは古河工場の阿曽雅弘工場長。

「乗用車と違い、トラックメーカーが造るのは運転席部分(キャビン)と荷台(シャーシ)までです。残りの部分は架装メーカーの担当です。バンボディにしたり、幌や冷蔵、冷凍室をつけたり、また消防車にもなる。私たちトラックメーカーの仕事はキャブ付きシャーシという基本部分を造ることです」(阿曽)

そうして、できた基本部分(大型トラックの場合)の価格は大雑把に見積もって、だいたい1500万円だという。むろん、これに架装した装備価格が載る。

海外製の超高級乗用車の場合、1500万円どころか数千万円する車がある。それを考えると、トラックという商品は決して高いものではないと思える。

「トラックの需要は国内よりも海外、特にアジアと米国で伸びています。現在は90か国以上で販売しており、いくつかの市場でトップブランドになっています。」(同)