クラウドコンピューティング企業として世界最大の売り上げを誇る「AWS」は、ネット通販のアマゾンの子会社だ。日本法人を訪ねたノンフィクション作家の野地秩嘉氏は「もはやアマゾンはネット通販企業でもIT企業でもない。『アマゾンという業種』を作り出したのだ」と分析する――。
アマゾン ウェブ サービス ジャパン社内にある、顧客サポートのスペース「AWS Loft Tokyo」(撮影=石橋素幸)

クラウドコンピューティングのサービスを提供

最初に断っておくけれど、本稿の文章は以下に挙げたカタカナ言葉がわからなくとも、ちゃんと理解できます。

たとえば……。

「データクエリ」「オンプレミス」「セキュアなデータレイク」「オーケストレーションサービス」「チャットボット」「HTTPオリジン」……。

アマゾン ウェブ サービス(以下、AWS)のホームページにはこうしたカタカナ言葉がいくつも躍っている。しかし、しつこいようだけれど、こうした言葉の意味を理解していなくとも、本稿を読めば、彼らの仕事、彼らがこれからやろうとしていることは「ああ、そうか」と理解できる。

AWSはクラウドコンピューティングのサービスを提供する会社だ。インターネットを利用して、コンピュータとそのシステムが行う数々のサービスを顧客に提供している。

AWSの親会社はAmazon.com, Inc.(以下、アマゾン)だ。GAFAと呼ばれるグーグル、フェイスブック、アップルと並ぶ巨大企業である。アマゾンの創業は1995年。ウインドウズ95が出た年で、インターネットが一般化する年でもあった。

AWSの年間売り上げはクラウド企業として世界最大

これまでアマゾンはネット通販の会社、IT企業とされてきた。しかし、近年の様子を見ると、ひとつの業界にとどまっている会社とは到底、思えない。どのジャンルからも、はみ出した企業だ。たとえば、アマゾンはすでに実店舗を持っている。Amazon Goというレジ無し店舗にも取り組んでいる。物流会社としても巨大だ。

そして、2006年に始まったAWSの年間売り上げは2018年で256億6000万ドル。クラウドコンピューティング企業としては世界最大である。

このように、もはやアマゾンはネット通販企業ではない。IT業界の中の一社でもない。アマゾンはアマゾンという業種を自らつくりだした。

AWSの日本法人であるアマゾン ウェブ サービス ジャパン(以下、AWSJ)の本社ビルは目黒駅前にある。

説明役として現れたのは同社代表取締役社長である長崎忠雄。美丈夫で小顔である。彼はAWSがやっている仕事をさらに詳しく、そしてわかりやすく教えてくれた。

「クラウドコンピューティングサービスは電力事業にたとえることができます。かつて電力は発電機を持っていた会社だけが使えるものでした。ところが、中央発電所、送電線、送電網ができたことで、発電機を所有していなくとも、電力というサービスを誰もが安価に受けられることになったのです」