運動会のフィナーレで、園児、保育士、保護者の全員が号泣するという保育園がある。全国で32施設を運営し、約3000人の子供を預かるコビーアンドアソシエイツでは、職員がプロとして運動会を準備する。そのため保護者に手伝いを求めることはない。ノンフィクション作家の野地秩嘉氏は「現場には感動があった」と語る――。
コビープリスクールかみめぐろ(撮影=石橋素幸)

「割れる食器」だから大切に扱うようになる

保育施設「コビープリスクールかみめぐろ」は東急東横線中目黒駅から歩いて12分の場所にある。通っている子どもは生後57日の乳児から就学前児童までの85人(2019年2月現在)。朝7時15分から夜の9時まで保育している。

施設の特徴をひとことで言えば、「大人が働いているところより、はるかにいい環境」であり、しかも、子どもたちは大人より、いいものを食べて一日を過ごしている。

同園をはじめ、全国で32の保育施設を運営し、約3000人の子どもたちを預かるコビーアンドアソシエイツ(以下、コビー)の代表取締役、小林照男は「子どもたちには“ホンモノ”が必要です」と言う。

「食事は栄養バランスはもちろん、本物のおいしい料理を食べてもらいます。当グループのシェフは銀座東急ホテルの総料理長でした。本物の料理を作ってきた人です。また、食器も、陶器やガラスです。プラスチックではありません。陶器やガラスだから落としたら割れます。だからこそ子どもは食器を大切に扱うようになる。当グループではおいしいものを食べて“ホンモノ”に触れて、感性を磨く保育、教育をしています」

保育士は“カッコいい大人”でなければならない

コビープリスクールよしかわステーションの節分行事食(写真提供=コビーアンドアソシエイツ)

ガラス張りの調理室は「キッチンスタジオ」と呼ばれ、子どもたちは調理風景を間近に眺めることができる。そこからいい香りが漂いはじめると、冷たいものは冷たく、熱いものは熱いうちに、厳選食材を使った料理が提供される。大企業に勤めるビジネスパーソンでも、これほどしっかりと毎日食事をとってはいないだろう。日々、ジャンクフードとコンビニ弁当で生きている大人にとっては理想の食事がそこにある。

保育士たちはシャツにチノパンという制服を着ている。加えて女性保育士は自分の好きな色とりどりのスカーフを巻いている。エプロンやジャージーも持っているけれど、ずっと着ていることは許されていない。そして、園長はジャケットを着用している。

「子どもは毎日、一緒にいる保育士たちを見ています。だから保育士は“カッコいい大人”という存在でなくてはならない。ですので、コビーではみんな一日中ジャージー姿で過ごすのではなく、きちんとした服を着て保育をしています」(小林)

ほかにも、コビーの各園では「“カッコいい大人”である先生がお手本」だ。

たとえば食事の際、保育士の先生だって、嫌いなものはある。しかし、お手本だから残したりはしない。

「うわぁ、ピーマンっておいしいなあ。先生はピーマンが大好きだ」と言いながら食べる。すると、ピーマン嫌いの子どもたちも少しは食べてみようという気になる。

「残さないように食べなさい」と叱っても、子どもは嫌いなものを食べようとはしない。