運動会のイメージを「最高の思い出」にする
「わたしが保育士の表情、姿勢、立ち位置、目線の向け方、競技に参加していない者の座り方、さらにはマイクの持ち方、そこに流れる音楽まで綿密に指示し、チェックして運動会に臨みます。運動会はもっとも子どもと保育士が共感できるイベントですから、それを盛り上げるように演出しています。
たとえば、競技やダンスごとのフィールドの準備、用具出しやライン引きはすべて保育士が行います。一般的には両親に手伝ってもらうところがほとんどです。ですが、当園ではライン引きにもプロの手際を要求していますから、運動会プログラムの合間に用具出し、ライン引きをしているのを保護者に見ていただきます。すると、あまりの手際のよさに、保護者から拍手をいただくこともあります」(小林)
コビーの各園の運動会では開会の数十分前から、保育士が円陣などで気合を見せつける。気合十分の保育士のパフォーマンスもプログラムに入っている。閉会後は帰宅する園児、保護者を全員で見送る。最後の一人が見えなくなるまで、徹底的に見送る。会場の後片付けは見送りがすんでから行う。裏方の作業を見せずに、運動会のいいイメージを「最高の思い出」、お土産として持ち帰ってもらうためだ。
住宅メーカー社員「サービスの原点を見させていただいた」
「運動会では、幼い子どもたちが感情をストレートに表現します。そこに一緒にいて共感するのが保育士の仕事であり、共感する場がわたしたちの仕事現場なんです。
ですから『一緒に悔しがって、一緒に喜んで、そして最後には、一緒に感動して涙を流せるように仕事をしよう』という言葉が生まれてきました」(小林)
わたしも一度、見学したことがある。確かに、わたしの子どもたちが通っていた保育園とは少し違うのが同園の運動会で、フィナーレでは園児や保育士、保護者が号泣していた。これは聞いた話だけれど、数年前には、運動会を見に来たおじいちゃん、おばあちゃんが感激して、翌日、感謝の手紙とともに保育園のポストに現金5万円を寄付してきたという。
保育園の運動会が人の心を動かしたわけだ。もうひとつ、運動会を見て、感動したビジネスパーソンもいる。見学後、ある住宅メーカーの社員は「ここまでやるかというサービスの原点を見させていただいた」と園に手紙を送ってきた。地元銀行の支店長は「ほかの保育園にはない、コビーの強さですね」と感想を漏らし、ついでに同園に「融資させてください」と言ってきた。
コビーの現場には感動がある。保育、教育は知識の移転でもなければ、毎日同じことをくり返すことでもない。心がふるえる一瞬をみんなで一緒に体験することが本当の保育であり、教育だ。(敬称略)
ノンフィクション作家
1957年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業後、出版社勤務を経てノンフィクション作家に。人物ルポルタージュをはじめ、食や美術、海外文化などの分野で活躍中。著書は『高倉健インタヴューズ』『日本一のまかないレシピ』『キャンティ物語』『サービスの達人たち』『一流たちの修業時代』『ヨーロッパ美食旅行』『ヤンキー社長』など多数。『TOKYOオリンピック物語』でミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。