「みぞか号」の機首にはイルカの顔を模した目と口が描かれていた。両翼エンジンは子イルカをイメージした青色のカラーリング。天草弁でかわいいを意味する「みぞか号」は、2000年から16年間、熊本県の天草エアラインで運航した航空機である。

黒木 亮氏(毎日新聞社=写真)

「48人乗りの小さな飛行機と言われますが、側で見ると本当に大きい。天草の生活、医療、観光の要であるダッシュ8(みぞか号)を天草エアのスタッフや自治体職員、そして天草の島民が支えてきたんです」と黒木亮さんは語る。

黒木さんがはじめて「みぞか号」に搭乗したのは11年。機上から見た普賢岳に目を奪われた。当時のダイヤは1日10便。しかもたった1機で運航していた。金融マン時代、航空機ファイナンスにたずさわった黒木さんは「ここにはドラマがある」と直感し、天草エアの取材をはじめる。

3年の歳月を要して上梓した新作『島のエアライン』で、県庁職員による運輸省への航空会社誘致の直談判、飛行機購入、パイロット採用やCAの訓練など、熊本県がゼロから作った天草エアの歩みが詳細に描かれる。

胸を打つのは開業前検査のエピソードだ。訓練の成果が発揮できず、国交省の検査官から打ち切りを言い渡される。このままでは開業できない。民間航空会社出身で運航を担う高橋力が、検査官に育成と開業の必要性を根気強く訴え、検査継続にこぎ着ける。

「ある人に業務日誌を貸していただいたんです。合格した日、CA3人みな泣く、という記述があった。ダッシュ8が天草に到着したときも、みんな泣いた。今時、泣けるほど仕事に打ち込めるなんて、と感じるものがあった」