一世を風靡したヒーローの本当の姿
世の中には自分のことを積極的に語りたがる人と、わかる人だけにわかってもらえばいいと黙する人がいる。伝説のプロレスラー、佐山サトルは後者のタイプだ。
佐山の半生は謎に満ちている。新日本プロレスに入団して、タイガーマスクとして一世を風靡。当時の小学生はこぞってローリングソバットの練習をしたものだ。人気絶頂期に突然の引退。その後、第一次UWFへの電撃参戦と離脱、新格闘技「修斗」創設、そして自らがつくった団体からの追放劇。いずれもプロレス・格闘技史上に残る“事件”だが、本人は何も語らないため、いまだ真相が明らかになっていない部分も多い。
「佐山さんは人に誤解されても気にしない。そのせいで損をしている。誰かがちゃんと伝えなくちゃいけないなと」
本書の取材を進めるうちに、その思いを強くしたという。
本書にリング上の描写はほとんど出てこない。名勝負との呼び声高いダイナマイト・キッド戦や、“虎ハンター”小林邦明戦は、さらっと触れてある程度。描かれているのは、フロントとの関係といった舞台裏だ。
「太陽と月なら、月の部分を書きたい。太陽は映像に残っているし、僕自身、闇に興味がある」