ネットで“真実”を知る、生真面目で報われない人たち
「実際の出来事を題材にした映画の最後に、登場人物のその後が描かれることがあるじゃないですか。あれ、好きなんですよ。事件のあと、当事者たちはどんな人生を送ったのか。その中国バージョンを書くなら、テーマはこれ以外にありません」
学生たちの民主化運動が戦車と銃で鎮圧され、数千人ともいわれる犠牲者を出した天安門事件。本書のタイトルは、その日付から取られている。
中国国内はもちろん、台湾、香港、タイ、日本など訪ね歩いた相手は、60人以上。運動のリーダーだった王丹氏やウアルカイシ氏も登場するが、大半は無名の市民だ。
「当時の学生はエリートですから、運動が挫折したあと、豊かになった社会に溶け込んで地位や富を得ている人も多くいます。酔えば『あの頃は若かったんだよ』と武勇伝を語る人も多い。日本の全共闘世代に似ていますね」
安田氏の共感は、そうではない人たちに寄り添っていく。貧困層出身のために学生が口にするスローガンの意味さえわからず、あとからインターネットで“真実”を知ったせいで翻弄されていく、生真面目で報われない人たちだ。