――『ニュースがわかる高校世界史』を上梓されました。なぜ「高校世界史」をニュース解説のテーマとしたのですか。
歴史の教科書って、そもそも10代の頃に一読してすぐに理解できるものではないと思うんです。それなりに教養も積み、日頃ニュースに接するようになった大人だからこそ、わかる面白みがあります。そこでニュースを世界史的視点から深堀してみようと考えたんです。
――さまざまな側面からの解説に加え、臨場感あふれる現地ルポも印象的でした。
私自身、雑誌やテレビでニュースを解説するお仕事をさせていただいています。ただ、トランプ大統領による関税の掛け合いや、世界で右傾化が進んでいるなどの情報に接したとき、もちろん頭では理解できても、その一方で、「実際の現地の人々は何を思っているんだろう」ということもとても気にかかるんです。そういった肌感覚までは、日本にいてはわかりませんから。
そこで各国で現地取材も重ね、そのコラムを随所にちりばめました。アメリカとの国境問題でもめているメキシコでは不法移民の方にインタビューし、ドイツではナチ党員を父親に持つものの、現在はかつてのナチスの敵、社会民主党(SPD)を熱心に支援する男性などに取材することができました。我々の父親世代にまで遡って話を聞くことで、現代の状況が腑に落ちるということもありました。
――本のなかでは、トランプ大統領は暴走しているように見え、実は初代大統領の価値観を継承している、というくだりもありましたね。
あれは私自身も驚きでした。米国の孤立主義を解説する際、よく5代目大統領のモンロー主義が引き合いに出されます。ヨーロッパ大陸との相互不干渉を宣言した内容です。
たしかにトランプ大統領は、他国の紛争解決に奔走してきた近年のアメリカの方針を一転させ、自国優先主義を徹底させるなどモンロー主義を彷彿とさせる行動をとっています。でも、ふと立ち止まってみるとそれ以前の大統領はどうだったのだろうと疑問が湧いたんです。そこでアメリカの歴代大統領を遡って一人ずつ調べていくと、なんと初代大統領ジョージ・ワシントンからして“アメリカ・ファースト”とも呼べる宣言をしていたことに気づいたんです。
ワシントンが大統領引退の前年に行った「告別の辞」という演説のなかに、このようなくだりがあるんです。
要約すると、「外国勢力がアメリカにとっての一番の敵であり、諸外国と極力政治的結びつきを持たないようにすること。われわれの平和と繁栄を、ヨーロッパの野心、敵対、利害などに絡ませてはならない」というものです。