乗用車がプレタポルテなら、トラックはオートクチュール

日野自動車古河工場の阿曽雅弘工場長(撮影=石橋素幸)

海外需要の高まりに合わせて、客からのニーズはますます多様になっている。

日本の運輸業者のようなトラックの使い方ではなく、鉱山で大量の資源を運ぶといったニーズもあるからだ。そうすると、フレームの強度をさらに高めなくてはならない。また、海外と日本ではトラックに対する法規制が異なる。日本では、安全のために運転席の足元から外が見えるウインドウの装備が義務付けられているが、海外ではそういった法規がない国もある。そうすると、日本で販売しているトラックとは違う形にするために、違う部品を揃えて組み立てなくてはならない。

「トラックの車型は増えています。乗用車は数十車型ですが、トラックは約3800車型にもなっています。トラックはお客さまのニーズに合わせて注文生産しているのが実態に近いです」(同)

乗用車の生産がプレタポルテだとしたら、トラックの生産はオートクチュールだ。ただし、一つひとつのトラックを手造りしていたら、1500万円前後で売ることはとてもできない。そこで日野自動車ではトヨタに学んだ「トヨタ生産方式」をベースに工場を運用し、カイゼンを重ねるとともに、日野ならではのものづくり改革を行っている。

「空調完備」の稀な工場

古河工場は、本社のある日野工場が手狭になったこともあり、茨城県古河市に造られた。敷地面積は約85万平方メートル。東京ディズニーランドが51万平方メートルだから、その1.6倍はある。

まず12年にKD(ノックダウン)工場が操業を始めた。15年にはアクスル(タイヤとタイヤをつなぐ車軸)工場、16年にフレーム(トラックの土台)工場と車両組立工場ができる。17年にはキャブ(運転席部分)工場が稼働し、フル生産ができるようになった。

現在、造っているのは大型トラックの「日野プロフィア」、中型トラックの「日野レンジャー」。2トンサイズの「日野デュトロ(通称、ヒノノニトン)」は小型トラックなので、羽村工場で造っている。

古河は都心から電車、車で約1時間。工場はJR古河駅からは車で30分の距離にある。工場のまわりは畑と住宅地。のどかな田園地帯である。一方、建屋とその内部はピカピカの新築だ。

「工場建屋内はすべて空調完備です」

阿曽さんは言った。

「ふーん、そうなの。それがどうかしたの」と思う人が大半だろうが、自動車工場の建屋は超巨大体育館の内部と同じだ。天井が高いから、全館に冷暖房の設備を入れると費用がかかる。だから、どこの自動車工場でも全館に空調を入れることはなかった。

夏は暑く、冬は寒いのが当たり前で、空調設備を入れるとしたら作業者に風を当てるスポット空調くらいだった。古河工場では人のいる空間のみを温度調節する効率的な手法を採用している。このように空調が行き届いているところは実に稀なのである。