資生堂、ライオン、ユニ・チャーム、日清食品が「国内回帰」
最近、大手企業を中心に、製造拠点を国内に回帰させる動きがみられる。
たとえば資生堂は今年2月、2021年に福岡県久留米市で新工場を稼働させると発表した。資生堂はすでに那須工場(栃木県大田原市)、大坂新工場(大阪府茨木市)を建設中で、合計で1700億円超の投資を見込む。
このほかライオンは21年に香川県で52年ぶりの新工場、ユニ・チャームは19年中に福岡県で26年ぶりの新工場、日清食品は今年に滋賀県で22年ぶりの新工場を稼働予定だという。
背景にはさまざまな要素が考えられる。ひとつは新興国の所得上昇だ。
新興国の所得上昇によって、現地生産のうまみが減った
アジア新興国の所得水準の上昇に伴い、高価格帯の商品を求める消費者が増えている。彼らにとって、“Made in Japan”の製品は、技術力などに裏打ちされた安全な高級品であり、依然として憧れの的だ。
また新興国の所得上昇によって、現地での生産がわが国企業にとって必ずしも有利とは言いづらくなっている。人件費などに着目すると国内で生産を行い、コスト削減を重ねたほうが有利と考えられる部分も出てきた。
国内で生み出される製品には、わが国ならではの技術力、品質管理力、デザイン性といった“ブランド価値”が反映されている。今後、その価値をさらに引き上げ、ブランド価値と競争力を高めることができるか否かが重要になる。
生産拠点が有望な消費市場に変わってきた
もうひとつの要因は、“Made in Japan”のブランド価値や競争力が再評価されつつあることだ。所得水準の上昇によって、生産拠点として重視してきたアジア新興国が、有望な消費市場(顧客)としての存在感を示すようになった。所得が上がったことで、今まで手が届かなかった日本製品に消費範囲が広がっている。
これまで、わが国の多くの企業は、賃金水準の低さなどから海外に生産拠点を移した。各企業は生活必需品などの汎用品をメインに生産を行い、それを世界の市場で販売して収益を上げてきた。この取り組みは為替レートからの影響を抑制しつつ収益を確保するために重要だった。
同時に、アジア新興国などは、先進国企業の直接投資を受け入れることで資本を蓄積し、所得を上昇させてきた。一人当たりGDP(国内総生産、企業収益と給与の合計額)の推移を見ると、新興国の所得増加のマグニチュードは圧倒的だ。