無人コンビニ「アマゾン・ゴー」とテクノロジーは同じ

2018年1月には一般向けの「アマゾン・ゴー」1号店がシアトルでオープンしました。買い物客は自動改札機のようなゲートにスマホをかざしてアマゾンのIDを認証することで入店、あとは棚から自由に商品をピックアップして、そのまま店を出るだけ。レジで精算する必要はなく、店の外に出ると自動的に決済され、スマホにレシートが送信されるのです。

実は、ここに用いられている技術は、ほぼ自動運転技術と重なります。序章でも引用しましたが、私は前著『アマゾンが描く2022年の世界』においてこう書きました。

「『ベゾス帝国』で計画を進めている宇宙事業やドローン事業は、『無人システム』であるということが本質です。そして無人コンビニ店舗であるアマゾン・ゴーも『無人システム』です。音声認識AIであるアマゾン・アレクサがすでに自動車メーカーのスマート・カーにも搭載され始めていることなども考え合わせると、実はベゾスは完全自動運転の覇権を握ることまでもたくらんで、水面下で準備を進めているのかもしれないのです。完全自動運転の実験場がアマゾン・ゴーだとするなら、本当に驚異的なことでしょう」

実際、アマゾンのHPにも「自動運転車に利用されるコンピュータビジョン、センサーフュージョン、ディープラーニングといった技術を応用」と書いてあるのです。すなわち、コンピュータビジョンが店内のカメラを通じて顧客の顔などを認識し、どこで何をしているのか観察します。ディープラーニングによってAIが顧客の行動を深層学習し、高速回転でPDCAを回し、顧客の経験価値を高めていきます。アマゾンはこうした技術を「Just Walk Out(ただ歩き去るだけ)」と表現します。完全自動運転のプロセスと多くの点で共通しています。

「アマゾン・カー」は究極の顧客第一主義

アマゾンの哲学やこだわり、事業構造と収益構造、そして次世代自動車産業に向けて何をもくろんでいるのか、整理してみることにしましょう。

車載用アマゾン・アレクサ(筆者撮影)

アマゾンのミッションは創業以来変わらず「地球上で最も顧客第一主義の会社」です。ここでいう顧客第一主義とは、端的にユーザー・エクスペリエンスを最重要視していることを意味しています。ユーザー・エクスペリエンスの向上のために「ビッグデータ×AI」を存分に活用し、その結果、高い競争優位性を実現しています。それはレコメンデーションの精度にも端的に表れています。アマゾンは、ユーザーの購入データに加えて、ユーザー同士の類似性や商品同士の共起性を解析することで、「この商品を買った人はこんな商品も買っています」という精緻なレコメンドにつなげています。

「顧客第一主義」といえば、いまどき珍しくないフレーズかもしれません。しかしアマゾンが驚異的なのは、それを単なるお題目に終わらせず、あらゆる領域で貫徹、「やり切る」ところです。それはCEOベゾスの手腕、キャラクターによるところが大きいと言えるでしょう。長期にわたりミッションを追い続ける「超長期」の視点と、PDCAを超高速回転させる「超短期」の視点をあわせ持ち、人格的にもあるときはフレンドリーでも、あるときは怒り狂うという両極端なパーソナリティの持ち主です。

ビジョナリーな経営者であることは間違いありませんが、付き合いやすい相手ではないようです。しかし時価総額70兆円を超えるような超巨大企業を率いて、「顧客第一主義」を徹底するには、このぐらい常識外れの人間でなければ不可能です。