自動車産業を根本から変えるといわれる「完全自動運転」。実現には高性能な半導体が不可欠です。これまで業界の王者はインテルでしたが、新分野ではエヌビディアが台頭しています。立教大学ビジネススクールの田中道昭教授は「エヌビディアは3D画像処理に強みをもっており、自動車産業の『影の支配者』となる可能性がある」といいます――。(第4回)

※本稿は、田中道昭『2022年の次世代自動車産業 異業種戦争の攻防と日本の活路』(PHPビジネス新書)の第8章「自動運転テクノロジー、“影の支配者”は誰だ?」(全35ページ)の一部を再編集したものです。

NVIDIA(エヌビディア)のジェンスン・フアンCEO。「CES2018」では世界初の自動運転車用プロセッサ「DRIVE Xavier(エグゼビア)」を公開した。(写真=ロイター/アフロ)

CPUでは1年以上の演算も、GPUなら1カ月程度

それ自体は目新しいものでなくとも、自動運転車に不可欠な技術として、改めて開発競争が進んでいるものがあります。半導体です。

センサーが取得した3次元画像データがどんなに素晴らしいものでも、それらビッグデータを直ちに演算処理し、運転に活かすことができなければ全く意味がありません。AIがそのポテンシャルを十二分に発揮するには、高性能な半導体が必須。その意味では、自動運転車の真の頭脳とも言えるのが半導体なのです。

とりわけ注目されているのは、3D画像を超高速処理する半導体、GPUです。

そもそも半導体とは、ハードウェアを制御してデータを受け取ったり、そのデータを演算・加工してメモリに記憶させたり、結果を別のハードウェアへ出力したりといった一連の動作を担うものです。パソコンやデータセンターのサーバーなどに搭載されている半導体は、CPUです。CPUには汎用性があり、さまざまな種類の動作をハードウェアに実行させることができます。

一方、GPUにはCPUほどの汎用性はありませんが、3次元画像の演算処理を高速で実行します。自動運転車の周辺情報をセンサーが把握するとき、膨大な3次元画像をリアルタイムで演算処理する必要がありますが、GPUはそのようなケースに適しているのです。

また、AIが「学習」する際のスピードも、CPUでは通常1年以上かかるところを、GPUなら1カ月程度で終えるといいます。これは、GPUの使用によって自動運転の開発効率が格段に向上することを意味しています。

AI用半導体の覇権をめぐる4陣営の戦い

GPUは車両の設計にも影響を及ぼします。自動車車両にはパワートレイン、ステアリング、ブレーキ、エアコンなどを電子回路で制御する電子制御ユニット(ECU)が搭載されており、その数は一車両あたり数十個から多いものであれば百個以上に上ります。

しかし、高度な演算処理能力を持つGPUが車両に搭載されると必然的に、1個のGPUが数個のECUに取ってかわることになり、ECUの搭載個数は減少するでしょう。そうなれば車両は軽量化・小型化し、部品メーカーを含めた自動車産業の構造やサプライチェーンも変化することが予想されます。

半導体を支配する者が自動運転を支配する――。そんな言葉がささやかれるなか、AI用半導体の覇権をめぐる戦いが行われています。

陣営は大きく四つに分かれています。

第一の陣営は、GPUでは一強の様相を呈しているNVIDIA(エヌビディア)です。実は、GPUを発明したのも、GPUをAIのディープラーニングへ初めて利用したのもエヌビディアです。自動車メーカーや部品メーカーなどと幅広い提携を進め、その数は300社を超えるとか。AI用半導体としては「エヌビディアのGPU以外に選択肢がない」と言われるほど、頭一つ抜けた存在となっています。