米アマゾンの驚異的な成長により、不振に喘ぐ企業が増えている。どう対抗すればいいのか。日本で最初にアマゾンと対峙したセブン&アイHLDGSの鈴木康弘元CIOは「本当の意味で対抗できるのは米ウォルマートぐらいだろう。その対抗意識は2018年2月の社名変更からもうかがい知れる」という。どういうことなのか――。

※本稿は、鈴木康弘『アマゾンエフェクト!』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

セブン経営陣はデジタルシフトがわかっていない

アマゾンの提供するサービスのなかでも、今後、いっそう力を入れていくと予想されるのがネットとリアルの融合したオムニチャネルのサービスです。

アマゾンは日本でも、2017年4月、生鮮食品の宅配サービス、アマゾンフレッシュをスタートさせました。

鈴木 康弘『アマゾンエフェクト!―「究極の顧客戦略」に日本企業はどう立ち向かうか』(プレジデント社)

一方、セブン&アイグループは、同年11月、オフィス用品の通販会社、アスクルと組み、生鮮食品宅配のIYフレッシュを始めたことから、マスメディアも「アマゾンを迎え撃つセブン&アイグループ」として注目しました。

しかし、わたしにはアマゾンフレッシュとIYフレッシュは、似て非なるもののように見えるのです。

デジタルシフトの時代は、自前のプラットフォームを構築し、そのうえで多様なステークホルダーを結びつけて一つの生態系(エコシステム)をつくりだし、そこに到来するアクティブユーザーの数を増やしながら、その顧客データを活用し、顧客のライフタイムバリューを高めていくことのできるものが生き残っていくはずです。

セブン&アイグループも、生鮮食品や雑貨・日用品の宅配については、オムニチャネルの独自のプラットフォームにおいて、イトーヨーカ堂のネットスーパーとして続けていました。集積された顧客データは自在に活用できます。

これに対し、IYフレッシュはアスクルの通販サイト、ロハコ(LOHACO)に出店するかたちです。構図が異なるのです。

わたしがセブン&アイグループでオムニチャネル・プロジェクトを推進したときは、自前主義によるプラットフォーム構築を志向しました。それはアマゾンと同様、状況の変化に迅速に対応するためです。

しかし、いまの経営体制は、自前主義から離れ、以前と同様、アウトソーシング化を進めようとしているようです。はたしてデジタルシフトの本質を理解しているのか、疑問です。