「楽天西友ネットスーパー」は対アマゾンの布石

ウォルマートは日本でも2018年1月、Eコマース市場でアマゾンと熾烈な競争を続ける楽天と戦略的提携に合意したと発表し、ネット業界や小売業界の関係者を驚かせました。

提携の第一弾として、ウォルマートの子会社である西友と楽天が共同で日本市場において、ネットスーパー事業「楽天西友ネットスーパー」を運営するといいます。

日本ではこの提携に対して、楽天サイドからとらえ、アマゾンに対抗した食品のネット通販事業の強化と見る報道が目立ちましたが、ウォルマートサイドからとらえれば、国内9000万人をほこる楽天会員の顧客データが大きな魅力だったのでしょう。

ウォルマートも一時は、アマゾンの勢いにのまれ、業績が悪化しましたが、ネット分野で積極的な企業買収を仕かけ、自前でシステム開発ができる体制を構築すると、ジェットの買収やグーグルとの提携をテコに反攻に転じ、その指揮をEコマース事業につうじたロア氏に託した。

また、ウォルマートの社名は「ウォルマート・ストアーズ」でしたが、2018年2月から「ウォルマート」に変更されました。リアル店舗をイメージする「ストアーズ」を社名から外す。ネット通販部門のさらなる拡大を目指すという、並々ならぬ覚悟があらわれています。

わたしがセブン&アイグループのオムニチャネル戦略で目指したデジタルシフトを、短期間に莫大な投資で推進したウォルマートは、今後もアマゾンの好敵手であり続けることでしょう。

ただ、明らかにいえることは、どちらも正しい方向に向かっているということです。

アマゾンは「ネットだけでは不十分でリアルの力も必要だ」と考え、ウォルマートは「リアルだけでは立ちゆかないのでネットとの融合にビジネスモデルを変更しよう」と考える。

その進む方向の先にいるのは、マスとしての顧客ではなく、個としての顧客です。最後はその顧客が、どちらがより満足度が高いかを決めることになるのです。

鈴木康弘(すずき・やすひろ)
デジタルシフトウェーブ社長
1987年富士通入社。SEとしてシステム開発・顧客サポートに従事。96年ソフトバンクに移り、営業、新規事業に携わる。99年ネット書籍販売会社、イー・ショッピング・ブックス(現セブンネットショッピング)を設立し、代表取締役就任。2006年セブン&アイHLDGSグループ傘下に入る。14年セブン&アイHLDGS執行役員CIO就任。グループオムにチャネル戦略のリーダーを務める。15年同社取締役執行役員CIO就任。16年同社を退社し、17年デジタルシフトウェーブを設立。同社代表取締役社長に就任。デジタルシフトを目指す企業の支援を実施している。SBIホールディングス社外役員も兼任。
(写真=iStock.com)
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