米アマゾンが驚異的な成長をつづけている。なぜアマゾンは強いのか。日本で最初にアマゾンと対峙したセブン&アイHLDGSの鈴木康弘元CIOは、「アマゾンの収益モデルは日本の小売業とはまったく発想が異なる。日本の小売業は『客単価×客数』という尺度を使うが、アマゾンは『ライフタイムバリュー』を重視する」という。「ライフタイムバリュー」とは、どういう意味なのか――。

※本稿は、鈴木康弘『アマゾンエフェクト!』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

会社の利益を未来への投資に回すアマゾン

「地球上で最もお客様を大切にする企業」

ジェフ・ベゾス アマゾン創業者兼CEO(写真=AFP/時事通信フォト)

それが、アマゾンの経営理念です。この理念は、業績の数字そのものに端的にあらわれています。

アマゾンの売上高は右肩上がりでのび、2016年の年間売上高は1360億ドル(約15兆円)に達します。

ところが、営業利益は約42億ドルで利益率は3%にすぎません。

2017年第3四半期(7~9月)の売上高は過去最高を記録しましたが、営業利益率はわずか0.8%でした。売上高が急速に拡大を始めた2000年代半ば以降の最終損益の推移を見ると、一貫して収支トントンが続いています。

アマゾンは、稼いだ利益の大部分をネット通販の値下げ、新規事業や物流網構築など長期的な投資につぎ込むからです。

そんな経営姿勢を、株主も高く評価しています。

アマゾンは上場企業でありながら、株主に配当を一度も払っていません。それでも、アマゾンの時価総額(2017年11月末時点)はアップルに次いで、世界第2位です。

現在、時価総額が1兆ドルにもっとも近いのは8823億ドル(同)のアップルですが、加速度的に成長を続けるアマゾン(同7147億ドル)のほうが先に到達する勢いを見せています。

配当がゼロであっても株主がアマゾンの経営姿勢を高く評価しているのは、株主利益優先より顧客利益優先の「カスタマー・セントリック(顧客中心主義)」のほうが長期的で継続的な成長につながると確信しているからでしょう。