今年3月、米国の玩具販売大手トイザらスが米国内の全店舗(735店)の閉鎖を発表した。その原因について「アマゾン・エフェクト」という言葉がささやかれている。米トイザらスはかつてアマゾンで唯一の玩具販売業者だったが、アマゾンが独自販売を始めると対抗できず、倒産に追い込まれたからだ。日本で最初に「アマゾン・エフェクト」と対峙したセブン&アイHLDGSの鈴木康弘元CIOがニューヨークの最新事例をレポートする――。

※本稿は、鈴木康弘『アマゾンエフェクト!』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

アマゾンの躍進は大きな「読み違い」だった

いまから12年前、日本で最初に“アマゾン・エフェクト”を経験したのは、おそらくわたしではないかと思うのです。

わたしはそれまで、ソフトバンクグループのヤフーの傘下で、書籍のネット販売を手がけるセブンアンドワイ(設立時の社名はイー・ショッピング・ブックス)という会社を経営していました。34歳のときに自分で起業した会社です。

それが一転、2006年に日本の流通業でイオン・グループと双璧をなすセブン&アイ・ホールディングスのグループに入り、セブン-イレブン・ジャパンの子会社に転じる選択をします。目指すゴールとは「ネットとリアルの融合」でした。

しかし、その近道を選んだはずの選択が大きな「読み違い」であったことを、その後の10年におよぶリアル流通業の苦闘の連続と、それとは対照的なネット世界でのアマゾンの躍進により、思い知らされたのです。

すべての本が、表紙を正面に向けてある

2017年秋、わたしはニューヨークの街に立っていました。

アマゾンがチェーン展開を開始した書店販売のリアル店舗「アマゾン・ブックス」。

出張の目的はニューヨークにあるアマゾンに関する3つの店舗を訪問することでした。

1軒目は、アマゾンがチェーン展開を開始した書店販売のリアル店舗、アマゾン・ブックスでした。

わたしが入ったのは、エンパイアステートビルの並びにあったニューヨークの2号店でした。そこには、既存の書店とはまったくちがう光景がありました。

目をみはったのは、本の陳列の仕方です。すべての本が、表紙を正面に向け、棚のスペースをゆったりと使って陳列する「面陳(面陳列)」や「面展(面展示)」になっているのです。

「これは、ショールームに近いのかな」

それが、店内を見渡した第一印象でした。

陳列された本には、アマゾンストアでの星数評価やカスタマーレビューを記載したカードがそれぞれ付されているので、人気や注目度がひと目でわかります。

本のカテゴリーわけも、アマゾンストアで四つ星以上のレーティングを獲得している本、ニューヨーク・エリアでのベストセラー、3日間で読める本、ウィッシュ(読みたい)リストにもっとも多く入っている本など、切り口がユニークです。

本の価格は表示されておらず、スマートフォン(スマホ)のカメラをかざして、専用アプリでチェックする仕組みです。レジではアマゾンストアで登録した決済方法で支払いができ、アマゾン・プライム会員は割引があります。

すべてが、面陳や面展ですから、在庫の点数は同じ面積の既存の書店と比べて圧倒的に少ないはずです。