アマゾンはこれまで大量の購買情報を蓄積してきました。そして人工知能(AI)の進歩により、そのデータを使った商品開発の環境が整いつつあります。「私の好み」を把握するアマゾンは、どの分野から手を広げるのか。立教大学ビジネススクールの田中道昭教授は「ユニクロのようなカジュアル・ファッションに参入するはずだ」と分析します――。(第2回、全3回)

※以下は、田中道昭『アマゾンが描く2022年の世界』(PHPビジネス新書)の第3章「アマゾンの収益源はもはや『小売り』ではない」を再編集したものです。

全商品が「低価格」ではない理由

AIの登場によって、アマゾンはこれまで蓄積してきたビッグデータの出口を見つけた、と見ることができます。「天の時」が到来し、ようやくビッグデータをユーザー・エクスペリエンスの向上につなげられる時代になったのです。

田中道昭『アマゾンが描く2022年の世界』(PHPビジネス新書)

また「ビッグデータ×AI」は、アマゾンの売上増を直接的にプッシュするものでもあります。アマゾン本体の売上方程式を整理してみると、やはり売上向上のためにビッグデータが活用されていることがわかります。

売上を因数分解すると、「客数×客単価」です。これをさらに分解すると、客数は一般顧客とプライム会員に分けることができます。また、セット率を高める、購買頻度を高めるというのが、客単価を上げるための代表的な施策です。

アマゾンの価格はダイナミックプライシングが特徴です。全商品が低価格というわけではなく、「ビッグデータ×AI」を使いこなし、検索上位の商品や人気商品を中心に低価格にしています。競合と比べれば安価かもしれませんが、ロングテールやあまり数が出ない商品は価格を大きく下げずに、きちんとマージンを取っています。

新サービスのターゲットは低所得者層

さて、セット率(購買点数)を高める、購買頻度を高める、プライム会員を増やすという点に関しては、プライム会員の増加が直接的に寄与します。また、「ビッグデータ×AI」によりリコメンデーション機能が洗練していくほどに、セット率が高まります。あるいはホールフーズの買収によって生鮮食料品の取り扱いが本格化すれば、やはり購買頻度が高まる方向に進むでしょう。

そして一般の顧客を増やすため、最近アマゾン・キャッシュというサービスが始まっています。アマゾン・キャッシュは米国で最近始まったサービスで、銀行口座やクレジットカードを持っていなくてもネットで買い物ができる、というもの。これまでネット通販を利用してこなかった低所得者層がターゲットだとされています。

こうして見ていくと、「客数×客単価」によって売上を伸ばすというプロセスの至るところに「ビッグデータ×AI」が活用されていることがわかります。

従来のマーケティングにおいては、属性のデータは比較的収集しやすいものであり、一方で、消費者の行動パターンと、心理パターンは、わざわざアンケートを行わなければ集められないものとされてきました。マーケティング上の有用性としては行動パターンや心理パターンのほうが高いのに、獲得するのが難しいというジレンマがあったのです。