ところが、アマゾンはここにもイノベーションをもたらしました。アマゾンが蓄積しているビッグデータは行動パターン、心理パターン、属性まですべてを含んでいます。その結果、アマゾンは通常のセグメンテーションよりもはるかに細密な「1人のセグメンテーション」「0.1人のセグメンテーション」を可能にし、売上向上につなげています。

なぜアマゾンは顧客の好みを知っているのか

ビッグデータを売上増につなげるとき、ひとつの強力なエンジンとなるのが、リコメンデーション機能です。アマゾンのリコメンデーションのアルゴリズムは「協調フィルタリング」といいます。ユーザーごとの購入予測モデルといってもいいでしょう。

一般的にはまだ知られていない言葉かもしれませんが、アマゾンで買い物をしている人であれば、「この商品を買った人はこんな商品も買っています」という表示に馴染みがあるはず。あれが協調フィルタリングによるリコメンデーションです。アマゾンの売上を押し上げているひとつの要因でもありますので、解説しておきましょう。

リコメンデーションのアルゴリズムとして協調フィルタリングと呼ばれているものは、マーケティングにおけるセグメンテーションであり、統計では分類と呼ばれているものです。似たもの同士を集めてグルーピングし、それを分類したり、セグメントに分けていくのがその本質なのです。

アマゾンで使われている協調フィルタリングには、顧客に着目した分類やセグメンテーションであるユーザーベースの協調フィルタリングと、商品に着目した分類やセグメンテーションである商品ベースの協調フィルタリングの2つがあると考えられます。

おすすめの精度が爆発的に高まっている

ポイントは、あるユーザーが商品をチェックまたは購入したデータと、また別のユーザーがチェックまたは購入したデータの両方を用いていることです。その購入パターンから、ユーザー同士の類似性や商品どうしの共起性を解析、ユーザー同士の購買履歴を関連づけることで、「この商品を買った人はこんな商品も買っています」というリコメンドにつなげるのです。

実際には、さらにそれぞれのユーザーのさまざまな行動ログや各種の検索履歴などもビッグデータとして活用されて、解析とリコメンデーションがなされています。これが高度になったものが、本書でも何度か言及している「0.1人セグメンテーション」なのです。

ここで前提になっているのは、「自分と似ているユーザーの評価と自分の評価は似ているだろう」という仮説です。その仮説から「自分は持っていないが、自分に似ている人が持っている商品はほしがるに違いない」という、さらなる仮説を導いています。

あえてシンプルに述べると、アマゾンにおけるリコメンデーションは、多くのユーザーのなかから自分に似ているユーザーを探し出し、彼らが持っていながら自分は持っていないアイテムをお勧めする、というのが基本です。

ユーザーにしてみれば、それまで知らなかった、意外性のあるアイテムがお勧めされることになり、そのためコンバージョンレートのアップも期待できる、というわけです。アマゾンが驚異的であるのは、ビッグデータとしての行動履歴の範囲とボリューム、リコメンデーションする商品・サービス・コンテンツの範囲とボリューム、そしてリコメンデーションの精度が、爆発的に伸びていることなのです。