Eコマースのための膨大な在庫を抱えている
ただ、棚を順に眺めながら、脳裏に浮かんだのは、その奥にあるアマゾンストアの膨大な在庫でした。
既存のリアルの書店は、基本的に店内ですべての在庫を抱えなければなりません。そのため、在庫の点数に制限があります。それでも、できるだけ多く抱えようとするので、多くの本が背差し陳列になります。
しかし、最近は書店で背表紙を見ながら本を探す顧客は少なくなり、背差し陳列の棚に入ったら、一部のロングセラーを除きその本はほとんど売れることはないといわれます。
一方、アマゾンの場合、Eコマースで販売する商品をストックしておくため、フルフィルメントセンターと呼ばれる巨大な物流センターがあります。そこには、既存の書店とは比べものにならないくらいの在庫を用意しておくことができます。
リアル店舗のアマゾン・ブックスには、そのなかから売れ筋の本がセレクトされて並ぶ。
しかも、面陳列なので、顧客も思わず手にとりたくなる。
また、ネット上で見つけた本を実際に手にとって確かめて購入するウェブルーミングもできれば、店頭で見た本をお店に設置された端末や自分のスマートフォンからアマゾンで注文し、自宅に届けてもらうショールーミングもできます。
読みたい本がアマゾン・ブックスの店頭になければ、アマゾンストアで検索して注文すればいい。
アマゾンは、Eコマースのための膨大な在庫を抱えているからこそ、リアル店舗網も容易に展開できた。その膨大な在庫のなかから、売れ筋を選んで店舗に並べればいいからです。
そこには、わたしがセブン&アイグループにいたころ、オムニチャネルで実現したかった「ネットとリアルの融合」を目指すリアル店舗の姿があったのです。
トイザらスの倒産は対岸の火事ではない
アマゾン・ブックスで3歳になる息子のために絵本を購入したあと、向かったのはタイムズスクエアにあるトイザらスの店舗でした。
玩具販売大手のトイザらスはもともとタイムズスクエアに旗艦店を出店していましたが、2015年12月、業績不振に家賃高騰が重なり、閉店。訪れたのは、2017年7月に、同じ場所で12月末までの期間限定で設けた店舗でした。
そのトイザらスの店舗はまさに、アマゾン・エフェクトを象徴する存在でした。
タイムズスクエアの店舗の再開店から2カ月後の9月18日、トイザらスは連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)の適用を申請しました。
われわれ昭和世代にとって、子どものころはデパートの玩具売り場が天国だったように、平成世代の子どもたちにとって、1991年に日本に上陸し、出店を開始したトイザらスの店舗は、夢のような世界でした。
それが、破産法申請にいたったのは、一つにはスマートフォンやタブレットの登場による子どもたちのデジタル志向などの要因もあります。それ以上に大きいのはネット通販の普及、わけてもアマゾンの躍進による影響でした。すなわち、アマゾン・エフェクトです。
アマゾンでの玩具の売り上げがのびる一方で、トイザらスは2013年以降、利益を生み出せない状態が続いていたのです。
トイザらスも以前は、アマゾンでの唯一の玩具販売業者として契約を交わし、Eコマースに出店していました。トイザらスの公式サイトをクリックすると、アマゾン内のトイザらス専用ページに飛ぶ仕かけになっていました。