会社を潰す2代目や3代目社長には、似たような失敗のパターンがある。信用すべきでない人物を重要ポストにつけ、裏切られてしまう、というものだ。

このタイプの社長の多くは、特に凡庸でも頭が悪いわけでもない。それどころかMBAの持ち主が少なくない。

そんな人物が、なぜ使い込みや、背信、違法行為に手を染める部下を、うかうかと信用し切ってしまうのか……。

この謎を解くヒントを示してくれているのが、日本でも人気の高い天才軍師・諸葛孔明(名は亮、字が孔明)だ。

孔明は、本場の中国でも知恵者の象徴であり、「平凡な靴屋でも、3人集まれば諸葛亮の知恵(三個臭皮匠、抵上一個諸葛亮)」ということわざまであるほどだ。日本でいえば「3人寄れば文殊の智慧」と同じ内容だ。

ところが1つ大きな弱点があった。先ほどの2代目社長と同じで、人を見る目に欠けていたことだ。前回とりあげた「泣いて馬謖を斬る」の故事は、その代表的な失敗例に他ならない。

では、なぜ孔明ほどの知恵者が、人を見抜くことを不得手にしていたのだろう。以前、筆者はこの質問を作家の陳舜臣さんにぶつけたことがある。陳さんはこう指摘されていた。

「孔明は、若かりしとき戦乱を避けて荊州に引きこもっていました。勉学に励むにはいい環境でしたが、現実にもまれる機会は少なかった。それが原因だったのではないでしょうか」

なるほど、孔明は「出師の表」という文章のなかで、若かりし頃の自分を次のように述懐している。

「臣は、もとはといえば一介の平民にすぎません。南陽においてみずから耕し、この乱世に生を全うすることのみを願い、諸侯に仕えて名をあらわそうなどとは考えもしませんでした」(出師の表)